南と初詣
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「今年もよろしくでーす」
「なんやそのゆるい挨拶」
「ええやん、うちらの仲やん」
玄関口から顔を出して声をかけると、すぐそばのリビングからよく知る人物が出てきた。ボサボサ髪で大きな欠伸をしている、幼馴染の男の子。
「ていうか、まだパジャマなん?部活ないからってだらけ過ぎちゃう?」
「……余計なお世話」
「ほんま、豊玉のエースがこんなんやって知ったら学校の女の子達が泣くで……あ、おばちゃん、あけましておめでとう!これいつものお餅です!」
ご近所の南さん家にはいつもお世話になっているから、と母に持たされたつきたてのお餅をお裾分けに来たのだ。ちょうど通りかかった烈のお母さんに手渡すと、いつもありがとうと感謝される。その例年通りのやりとりに自然と笑みがこぼれた。
「……烈、暇やったら一緒に初詣行く?」
ふと思い付いて口にすると、彼の返事を聞く前に彼の母から「そうしい」と明るい声が返ってきた。一度家の中に引っ込んでから着替えてきた幼馴染は、ぶつくさ言いながらもお参りにはきちんと行くようで。
「おみくじ引こな?」
「あの神社どうせ大吉しかでえへんやろ」
「せやから大吉引きに行こ」
「……はいはい」
こんな風に幼馴染として隣を歩けるのは、いつまでなんだろう。そんなことを考えて寂しくなった私は、どうか少しでも長く彼といられますようにと、お賽銭を奮発して神様にお願いしておいた。