二番煎じ | ナノ
「俺さ、けっこう一途なんだ」


「名前ちゃん、手伝うよ」


名指しで掛けられた声を無視するわけにもいかず、一瞬ギクリとした顔に笑顔を貼り付けてから振り返る。抱えていたノートの一番上のページが、風でぱらりと捲り上がった。

隣に並んで歩く彼は、ここ最近、気が付けばいつも私の近くに居るような気がする。というか、これは気のせいじゃない・・・と思う。


「ねえ、仙道くんてさ」
「んー?」


職員室まで持っていく途中だったクラス全員分のノートは今、仙道くんの腕の中にあった。手伝いを断っても結局押し問答になってしまうのはここ最近で十分に学んでいたので、私は早々に彼の好意を受け入れていた。

それよりも、今は何で仙道くんがここまで私に優しくしてくれるのかということが重要で。つまり、彼は私のことを好いているからだと予想できる訳だけど。

(そこまで鈍感では、ない)


「彼女いるよね?」


そう、私はこれが言いたかった。

最近女の子の間でよく囁かれている噂がある。仙道くんに新しい彼女ができたらしい、というもの。やっぱり人気者の彼は、一挙手一投足に注目が集まってしまうようで。

(噂の中にはきっと、根も葉もないような予想やデタラメもあるんだろうけど・・・)

実際、私は仙道くんが彼女らしき女の子と一緒に街中を歩いてる所を見ていたので、信憑性は五分五分だと思っていた。


「・・・いないよ?」


なのに、彼の口からは予想に反して否定の言葉が出てきた。驚いた私がその場に立ち止まると、数歩先で仙道くんがこちらを見ている。眉の下がった、ちょっと困った顔だ。


「俺さ、けっこう一途なんだ」


彼がそう言ったきり、職員室に着くまでお互いに口を開くことは無かった。

用事が済み、教室までの帰り道の途中、私のくっついた喉からようやく声が出た。


「仙道くんのこと、誤解してたかも」
「あはは。どんな風に見られてたかは、だいたい想像つくけどね」


じゃあまたね、と最後に微笑んで隣のクラスに消えていった仙道くん。なんだかこの数十分でどっと疲れたような気がする。のほほんとしているようでその実彼の私を見る目には、こちらを追い詰めてくるような、なにか強い力を感じてしまう。

そして、廊下の先からこちらを睨むように見ていた彼氏の視線も、視界の端で僅かに感じ取っていた。


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