二番煎じ | ナノ
「・・・似合ってる」


「あ、仙道くん」
「名前ちゃん?こんなとこで珍しいよな?」


学校が休みの日のお昼過ぎ、ふらりと散歩に出かけた私は、海辺にある桟橋で思わぬ人に出会った。


「へえ、仙道くんって釣りするんだ?」
「まあね。趣味なんだ」
「・・・似合ってる」


ビーサンに釣り竿一本。ラフな格好でそこに座る彼を、上から見下ろした。仙道くんを見下ろすなんて普段なら絶対に出来ないから、なんだか嬉しくなる。

(お休みの日でもツンツン頭だ・・・)


「名前ちゃんなに笑ってるの?」


無意識に笑っていた私に仙道くんは一瞬不思議そうにして、それから穏やかな笑顔で返してくれた。彼の雰囲気と波の音が、なんだかすごく落ち着く。
しばらく見てていい?と聞くと、二つ返事でオーケーしてくれたので、私は隣にそっと腰を下ろした。




「・・・ちょっと聞きたいんだけど」
「うん?」
「昨日、仙道くんと一緒にいたよね?二人だけで」
「私たち、偶然見かけただけなんだけど」


翌朝、階段の踊り場で声をかけてきたのは数人の女の子だった。たぶん、同じ学年の子たち。


「彼氏いるんでしょ?ああいうの良くないと思うんだけど・・・」
「仙道くんって人気だから、変な噂たったら迷惑だろうし」
「あなただって困るんじゃないかな」


ようするに、人気者の仙道くんに気安く近付かないで欲しい。彼氏がいるのに親しくするなんてどういうつもりだ。私の出方次第で、悪い噂を流すのも吝かではない。
・・・と、そういうことだと私は受け取った。まあほぼ間違ってないと思うけど。

その子たちは言いたいことを言って気が済んだのか、予鈴を聞いて慌てて教室に戻って行った。ハァ、と溜め息をひとつ溢す。


(みんな勝手・・・)


噂とかそういうの、仙道くんがいつ嫌だと言ったんだろう。私と彼が一緒にいたのは偶然だし、やましい事など何もないのに。彼氏がいたら他の男の子と話すこともダメなのか。やっかむくらいなら、自分たちがもっと仙道くんに近付けばいいじゃないか。

頭の中をぐるぐると巡る嫌な考えが、私を縛りつけてしばらくその場から動くことが出来なかった。


PREVNEXT



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -