二番煎じ | ナノ
「英語の辞書貸してくれない?」


「名前ちゃん名前ちゃん」


どこでもない空間をただぼうっと眺めていたら、頭の上の方からのっそりと影が近付いてきた。
廊下側のいちばん後ろの席に座る私のすぐ近く、教室のドアを開けてこちらを見下ろしていたのは、この学校ではちょっとした有名人の仙道 彰くんだった。


「んー?なに、仙道くん」
「英語の辞書貸してくれない?」
「・・・いいよ」


彼の登場に、クラスの一部の女の子がざわついているのが分かる。それは彼のルックスのせいであり、分け隔てなく優しいその性格のせいであり、加えて彼が県内でも名の知れたバスケ部のエースという肩書きを持っているからだった。


「やった。助かるよ」


今日はもう使う予定のない辞書を、仙道くんの大きな手の上にポンと乗せた。サンキューと言って微笑む彼に軽く手を振れば、口笛を吹きながら隣のクラスに戻って行く。
仙道くんが居なくなると、羨ましそうにこちらを見つめていたクラスメイトに気付いていないフリをして、私は次の授業の準備をした。

仙道くんが私に話しかけるようになったのはいつからだっただろう。
それまで彼の存在は、私にとって遠目から眺めるだけのただの同級生だった筈なのに。いつの間にか、本当に知らないうちに。物の貸し借りをするくらいには、仙道くんと私は世間一般で言うところの『お友達』の関係になってたみたいだ。


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