二番煎じ | ナノ
「言いたい放題だな」


「言いたい放題だな」


この場にいないはずの低い声が、空から降ってきた。私は喉から出かかっていた言葉たちを飲み込む。
また、だ。どうしてこう、彼は私の前に現れてくれるんだろう。助けてほしい時に手を差し伸べてくれるんだろう。


「聞くつもりはなかったんだけどね」


上で寝てたんだ、と緊張感のない表情で貯水タンクの影から飛び降りてきた仙道くん。制服に着いた汚れを軽く払うと、私の目の前にずい、と割り込んで背中で隠してくれた。そして女の子を見下ろす。


「俺が君を好きだなんて言った覚えはないんだけど」
「だ、だって・・・気になるって言ってたじゃない!」
「そこの男がさ、名前ちゃんを振ってまで付き合った女の子だから・・・どんなもんかと思っただけ。何とも思ってない」
「ひど、い」


ついさっきまで私に息巻いていたとは思えないほど小さな声。少し震えているのが分かる。それをまったく気にせず追い詰めるように続ける仙道くん。「なんで?君が好きなのはアイツだろ?」と言って元彼を指さした。


「俺からしたら君達ってホントお似合いだと思うよ。どっちも自分本位で似た者同士だ」
「仙道、お前いい加減に・・・」


「だからさ、こんな茶番見るに堪えないんだよな。これ以上名前ちゃんに関わらないでくれる?」


仙道くんのその言葉に目尻が熱くなった。彼の背中に隠れながら、泣くのを必死でこらえる。私のために言ってくれてるんだと思うと、胸がいっぱいになった。

一瞬怯んだ元彼は反撃する言葉もない様で、あろうことか仙道くんに向かって拳を振り上げた。


「こ、の野郎・・・!」
「やめてっ!」


私の声は届かず、仙道くんの顔をめがけたそれは鈍い音を放ち、彼を少しよろけさせた。でもすぐに体制を戻して、また私の前に立つ。


「・・・気が済んだろ。行ったらどうだ」


冷たく言い放たれた言葉や視線に怒気が含まれていて、私に向けられていた訳じゃないのに怖くて仕方がなかった。なにより、仙道くんが本気で怒っているところを、初めて見た。


「おい名前・・・」


仙道くんの頬を殴った手はだらりと体の横にして、今まで聞いた事ないような力無い声で私の名前を呼んだ元彼。縋るようにも見えるその姿に視線を合わせた。

そうして、彼が何かを言う前に一言告げる。


「彼女の事、大切にしてあげなよ」


女の子のすすり泣く声だけが耳に残った。


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