二番煎じ | ナノ
「・・・何か、用?」


放課後、遠目にその人物を見つけギョッと目を丸めた。誰かを待っている様子に心臓が嫌な音を立て始める。つつ、と冷や汗が背中を伝い、思わず進行方向を変えた。裏門から出よう。そうしよう。



「名前」
「・・・っ!」


がしり、と力を込めて肩を掴まれた。久しぶりに聞いたその声は思い出の中のそれよりもどこか威圧感があって、私は立ち竦んだまま振り返ることは無かった。

駅からもバス停からも遠いこの裏門は、あまり人が通らない場所だった。グラウンドや体育館と面しているから、たまに運動部の人たちがランニングをしているのを見かけるけれど。
今は私と、元彼の二人きり。


「・・・何か、用?」


感情の起伏を極力抑え、小さな声音で問う。私の前に回り込んだ彼は、少し間を置いて口を開いた。なんとも勿体ぶった間だ。


「やり直したい」


今さら何を言われるのかと身構えていれば、聞こえてきたのは予想外なことだった。
やり直したい、とはつまり私ともう一度付き合いたいということだろうか。驚きを通り越して呆れにも似た感情が胸の中に広がる。

一体どういうつもりだという気持ちを込めて彼に視線を向けると、そこには随分と余裕のある表情があった。というより、彼はこういう人だった。自分が望むことは大抵思い通りになるのだと信じて疑わない。良い意味では、人を率いるような強い性格の持ち主。しかし言ってしまえば、ただの傲慢。そして今、私の返事を待つ彼は、まさにそういう態度で目の前に立っていた。

嬉しいだろう、と言わんばかりの彼に心の中だけで溜息を吐き出す。


「・・・元には戻れない」


考えるまでも無かった。好きだったはずの記憶を思い浮かべても、何も引っかからないのだ。彼を想う気持ちなんてとっくに遥か彼方へ消えている。


「は?なんで」


案の定、納得がいかないという反応をされる。そもそもどうしてやり直せると思ったのか、一度彼の脳みそを覗いてみたいと思った。そういう気持ちを丸ごと飲み込んで「というか、彼女いるんじゃないの?」と当然の疑問をぶつけてみれば、返ってきたのはこれまた予想外の言葉。


「もう別れるつもりだし」
「・・・」
「名前だって後悔してるだろ?」


何だそれは、と一瞬目が点になった。彼は言動がまるでちぐはぐだ。じゃあ、私が先日あの子に絡まれたのはどういう訳だと頭が痛くなる。あの女の子は優越感に浸って私のことを見下し、ひどく挑発的だった。私には、そう思えたけど・・・。


「私はもう好きになれる自信、ない」
「なんだよ、自信って・・・ふざけんな」
「ふざけてるのはどっちよ」
「っ俺は真面目だ!」


思い返せば、私が正面から彼を拒むのは初めてだ。いつも曖昧に笑って受け流していたし、大抵のことには頷いていたから。だからだろうか。・・・だから、彼はむきになってるの?


平行線のまま気力だけを失っていく。誰でもいいから、誰か。人でも神様でも。誰かこの不毛な会話を終わらせてくれないかと願い、私は強く手を握った。


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