「古市、貴様あの飴玉を食べたのか…?」


混乱する思考の中、声のした方へ振り向くとベル坊のミルクを手に持ったヒルダさんが立っていた
“飴玉”の一言でなんとなく原因が分かってしまった俺は、先ほどの軽率な行動に出た俺を激しく恨んだ
なにが悲しくて男の俺が女の子の身体にならなきゃいかんのだ
どうせなら可愛い女の子がわんさか寄ってくる飴玉が良かった、切実に


「いまお前のくだらない考えが読めたぞ」
「すいませんねくだらなくて!てか、なんなんすかこれっ!どうやったら元に戻るんすか!」


いつもより幾分高めの自分の声にも落胆する
本気で悲しくなってきた
男にしては自分でも細い自覚があるとはいえ、いつも着ていた制服はブカブカだし、髪の毛も伸びてるみたいだった

そして俺の声が思ったより大きかったらしく、教室中の視線が一気に俺へと注がれた
なにこれまじ死にたい
てか恥ずかしすぎて死ねる


「お前、古市か…?」
「は!?古市ッ!?」
「古市君かわいー」
「どうして女になってるんだ?」


姫川先輩、神崎先輩、夏目さん、東条さんに一斉に話しかけられる
不幸中の幸いか、教室内には烈努帝留のお姉様方はいなく、とりあえず最悪の時代は免れた
その時背後からの視線に気付いて振り向く
そこには見慣れすぎた顔が呆然と立ち尽くしていた


「……古市お前、ついに女になったのか」
「お前はリアクションの方向性がまず間違ってんぞ!」


男鹿は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに近くに寄ってきた
咄嗟に空いてた胸元を隠したのはなんでだろう
これが女子のする自然な行動なのか?


「いや昔から可愛い顔してるとは思ってたが、ついに…」
「ならねーよ!てか不可能だろ生物学的にッ!」


このままではいつまでも脱線しそうだったので、とりあえず一通りの経緯をみんなに話す
それを聞いた全員から言われたのは、得体の知れないものを食べたお前が悪い、との意見だった
何も言い返せなくて泣けてくる


「それで、なにか解決策はないの?」


慰める様に俺の頭を撫でながら夏目さんがヒルダに言った
いま女の子の身体だからなのか、なぜかその行動にきゅんとする
夏目さんは絶対モテるなと女の子勘が言った


「元はと言えばその飴は魔界の住人が好むもので、今度ラミアがこちらに来たときにでもやろうかと思っていたんだがな。悪魔が食べても何の害はないが、人間が食べると副作用を起こす。その症状は人によって様々だが、それらを元に戻す方法はただ一つ……」


一つ間を置いてヒルダさんは続ける


「異性の者と口付けを交わすことだ」


くちづけ……?
その言葉に俺の脳内は一瞬にしてフリーズする
え、口付けってちゅーの事ですよね?
聞かなくてもそうだよチューだよ
でも異性ってちょっと待って、俺いま女の子だからそれは……つまり


「男とキスしなきゃいけないって事ですか?」


俺の最後の希望も、ヒルダさんの麗しい満面の笑みによってうち消された
俺はいま人生の岐路に立っているのかもしれない
男とキスをして元の身体に戻るか、それともこのまま女の子の身体で日々を過ごすか
……正直どっちもいやだ


「それなら話が早くて助かるじゃねーか」


姫川先輩が怪しげに眼鏡を光らせながら呟く
そして次の瞬間、俺はその腕に肩を抱かれていた


「なかなか好みの顔だしな。唇、貸してやるよ」


耳元で囁かれたその言葉に色んな意味でゾクッとした
しかし違う手に腕を引っ張られてそこからなんとか脱出する


「テメーみたいなゲス野郎なんかにしたら、どうなるか分かんねーだろ。俺の事は気にしないでやれよ、古市」


柄にもなく本気で心配してくれる神崎先輩に安心する
その言葉の裏に普段この人がどれだけ被害を受けているのか垣間見た気がして、こんな状況にも関わらず同情してしまう


「えー、神崎君にするんだったら俺にした方がいいよ絶対。もったいないよ」
「夏目それはどういう意味だコラ」
「そのまんまの意味☆」
「よーし、今すぐ冥土に送ってやるからじっとしてろよ。ぜってーそこ動くなよ頼むから」
「古市いい子だからこっち来い、な?」
「小動物みたいに俺を呼ばないで下さい東条さん」


なにこのぐだぐだ感
本当に俺このまま一生この身体かもしんない
父さん母さん、例え女の子に変わっても俺は貴方たちの子供です
どうか悲しまないで下さい

…俺はすでに泣きそうだけど


          




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