「探したぞばか。寒いだろ、早く降りてこい」

もっとたくさん言いたい事があったはずなのに、口から出た言葉は少なかった
とにかく今は冷えきったあいつの身体を暖めてやりたい
文句とかおばさんの事とかはその後でいい

「どした…?」

けど一向に動く気配がない
あいつの泣きそうな表情に胸がざわつく

「足、怪我しちゃって…」

そう呟いたゆきはまるで木の上から降りられなくなった子猫みたいだった
場違いなのになんだか可愛く思えて、あいつの真下に行って両手を大きく開く

「いいから、ここに飛び込んでこい」

ぜってー落とさねぇから
そう言えばあいつのただでさえ大きな目がもっと見開かれた

「あ、あぶねーよ…ッ」
「だからぜってー落とさないから安心しろって」
「じゃなくてたっちゃんが危ないよ!」

予想外の言葉に今度は俺が目を見開く番だった
他人の心配してるひまなんてあるのかよと思う
苦笑しながらもう一度手を開いた

「お前のほっせー身体なんか余裕だっての。お前こそ間違って地面に激突すんなよ」

お前が飛び込むところはここだ、と手を上げれば躊躇いながらもゆきは木から飛び降りた
頭から落下してくるその身体を、危なげなく抱きとめる
そのままぎゅっ、と抱き締めればやっぱり怖かったのか背中を強く掴まれた

「はい、よくできました。それじゃあ帰るぞ」

そう言って手を取るとその白い手が赤い傷だらけであることに気が付く
真冬に木に登ったんだ、無理もない
ズボンのポケットから手袋を出してその傷だらけの手を包むようにつける
ついでに首に巻いていたマフラーもつけてやる
そのまま前にまわって背中を向けたまましゃがんだ

「ほら、乗れ」
「え、でも……」
「いいから早く乗れ」

有無を言わせない口調で言えばしぶしぶといった感じに背中に重みを感じる
遠慮がちに肩に置かれた手を見てようやく安心出来た気がした

「おばさんすげー心配してたぞ」
「……うん」
「おじさんもめっちゃお前のこと探してた」
「……うん」
「ほのかも熱下がったってさ、良かったな」
「……うん」
「……もう突然居なくなんなよな」
「…うん…ッ」

段々とその声が震えてきている事には気付かない振りをしておく
そのまましばらく無言で歩いていると、だいぶ温かくなったゆきの声が耳元で聞こえた

「…見つけてくれて、ありがとう」

背中に感じる重みがとても大切なものに思えた
安心したのか眠ったゆきの長い睫毛が夕日に反射してきらきらと光ってる
宝石みたいに綺麗だと思った




どこかから俺を呼ぶ声が聞こえたんだ
それはとても大切で愛しい、君でした



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