※小学校設定



心のどこかで、お前を呼んでいた気がする



寒さも本腰を入れてきた真冬の朝
目が覚めたら家の中は少しだけばたついていた
眠い目を擦りながら階段を降りれば、慌てた様子の父さんと母さんがソファでぐったりしているほのかを囲んでいた

「……どうしたの?」

冷たいフローリングを歩いて近寄れば、寒いと言うのに顔が真っ赤になったほのかが苦しそうに息をしている
人目見てすぐに分かった、風邪だ
しかもかなり重い

「貴之、ごめんな。今から父さんたちほのかを病院に連れて行くからお留守番しててくれ」
「でも、父さん今日こそは一緒にキャッチボールしてくれるって…」
「本当にごめんな。次こそ絶対に約束守るから」

あやすように大きな掌で頭を撫でられてもショックは拭いきれない
元々出張の多かった父さんとキャッチボールをする約束を交わしたのは、もう三ヶ月も前だ
ほのかを心配する気持ちよりまた裏切られた気持ちの方がどんどん自分の中で大きくなって目頭が熱くなる
病院へ連絡したらしい母さんが子機を置いてほのかを抱き上げる
おれなんか目もくれない二人に悲しさはピークに達していた

「父さんのわからずやッ!!」
「っ、貴之ッ!」

二人の足元を縫うようにして玄関へ走る
そのまま掛けてあった学校の行き帰りに来てるコートを引っ付かんで勢いよく外に飛び出した
刺すような寒さの中で涙が流れる顔だけが熱かった





ずびずびと流れる鼻水と涙を拭いながら宛も無く道を歩く
父さんも母さんもおれよりほのかの方が大事なんだ
そう思うと余計に涙が止まらなかった

朝方のこの時間は特に冷え込んでいて、薄いパジャマにコートを羽織っただけの恰好はあまりにも寒すぎた
しかも靴を履いているとはいえ素足だ
一旦家に戻ろうかと思ったけどそれじゃあ飛び出てきた意味がない
一瞬幼なじみの顔が思い浮かんだけど、それじゃあすぐに母さんたちに見つけられるからだめだ
誰にも見つからない温かい場所
そう考えて思い浮かんだところがあった

「あそこなら…」





いつも通り小学生にしては遅い時間に目覚めた
今日は一段と寒い気がする
そう思った時、姉貴が部屋に入ってきた

「たつみやっと起きたの。さっきおばさんが来てね、たかちんがいなくなっちゃったんだって」

あんた思いあたる場所ある?と聞かれてもすぐには思い浮かばなかった
あいつと遊びに行った場所なんて星の数ほどある
その大半はおれが半ば無理矢理あいつを連れて行った場所なのだが

「分かんねぇ。けど、見つける」

すぐに着替えて少し考えてあまり付けないマフラーと手袋も持って外に出た
たとえどんな場所にいてもあいつを見つけられる
不思議とそんな気がしたから





かじかんだ手に堅い木の皮が食い込んで痛かったけど、歯を喰いしばって必死に木の上に登る
あれは確か去年の夏、いつも遊ぶ公園のそばにある林の中に入った時だった
ひときわ大きくて高い木の上に、家があった
壁も屋根も木で出来ていて手作りだけど立派だった
ツリーハウスと言うんだと後から聞いた気がする
一目みてひかれて、一緒にいた幼なじみと共に木に登った
家の中は意外と綺麗で小さなローテーブルとクッション、そして何故か毛布まであった
物凄い発見をした気になって思わず叫んでしまった記憶がある
『おれたちの秘密基地だね』と

「……あッ!」

思考に浸っていていつの間にか足を踏み外していた
低くもない木から身体が浮く感じがする

(助けて…ッ!)

無意識に心の中で叫んでいた






しらみ潰しにあいつと遊んだ場所を辿って行き、気が付いたら日も傾きはじめていた
段々と焦る自分に舌打ちしながら、もう何度も探したいつも遊ぶ公園へ足を踏み入れる
その時ふと目に映った林にはっとする

(もしかしたら…)

そう考えた瞬間迷わず林の中に入って行った
木がたくさん生い茂る中は外よりもだいぶ暗い
記憶を頼りに一つ一つの木を見ながら歩けば、少しも経たない間にそれを見つけた
あいつが言った、おれたちの秘密基地

「……ゆき」

ツリーハウスの小さなドアを見上げながら探し人の名前を呼ぶ
その声は思ったより小さかったけど、静まり返った林の中に響き渡った
少しの間を置いて、躊躇いながらそのドアが開いた
暗がりでも分かる眩しいくらいの銀色

「……たっちゃん?」


ほら、見つけた


          



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