こいつと一緒にいるようになってから、前触れのないキスなんて日常茶飯事だ


「……で、夏目がその客に……ッ!」
「あ、わり。でなに?」
「お前人の話聞く気ねーだろ」

そのほとんどがこいつにしては可愛らしいついばむ様なもので、イメージ的考えると気持ち悪い
もっとこうゲスな感じでネチョってしててヌメヌメした恋愛をするやつだと思ってた

「お前ってキス好きだな、恥ずかしいやつ」
「いや別に普通だから……てかキスってゆーよりお前の唇が好き」
「はああッ!?」
「今までキスなんてセックスの前戯ぐらいにしか思ってなかったんだけどな、お前の唇見た目裏切ってと違ってやわらけーし」

なにこいつほんと恥ずかしい
なんだかしらねーけどこっちまで恥ずかしくなってきた

「こんなもんなきゃもっと気持ち良いんだけどな」

姫川の指が耳と唇を繋ぐチェーンをなぞる
その指が唇に到達した時、嫌悪感ではないなにかがぞわっと背中に走った
そのまま近付いてくる姫川の顔に思わず手が出ていた

「………あ」
「ってぇーな。グーで殴るか普通」

見事に入った姫川の鼻からは少しだけ鼻血が出ていた
いたたまれない気持ちになるけど素直に謝罪の言葉が出ない
姫川はこんな目付きの悪くて文字通り凶暴な俺のどこがいいんだろうか
口を開けば暴言ばかり
素直から最も程遠い人間の一体どこが、

「お、まえが変な事言うから…」

我ながら嫌になりそうだ

「ま、別に気にしてねーけどな。お前の暴力と暴言は愛情の裏返しってことちゃんと知ってるからな」
「な……ッ」
「図星、だろ?」

先ほどよりも数倍顔の表面温度が上がった気がする
これ以上熱くなったら冗談抜きで爆発しそうだ
鼻血を流しながら不敵な笑みを浮かべているその表情は、端からみたら滑稽なことこの上ないのに、どうしようもなくかっこよく見えた
今なら少しだけ、自分に素直になれる気がする

「お前の言う死ねも愛してるって言ってるように聞こえるんだよ俺には。それにお前に殴られるのも不思議と嫌じゃねーしな」

そんなの当たり前だ
本気でそんな事言ってる訳でもやってる訳でもねーんだから

「お前マゾか」
「もしかしたらお前限定でそうかもな」

なにこいつ超きもい
こいつと一緒にいるようになってからどんどん姫川のイメージが崩れて行く
底辺より遥かに下だった姫川の印象が、知らないうちに右肩上がりになっていた

「…おい」

こっちを向いたその少しだけ高い位置にある顔に背伸びをして唇を重ねた
可愛らしいキスなんかじゃなくてわざとガチ、と歯がぶつかる音を奏でながら
すぐに顔を話せば余裕そうな顔なんて微塵もないただのアホ面がそこにあった

今ならちゃんと言える
俺はこいつが、

「一生死んでろ、ばーか」


こんなにも愛しい



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