※微裏



抱き締められるだけで、小さく口付けられるだけで、俺は身体いっぱいで幸せを感じられた
その気持ちは変わらない
けど、それだけじゃ世の中だめなんだ
愛情だけじゃ欲は満たされない
満たされなければ捨てられる
棄てられるかもしれない
そう思うと息が出来ないくらい、胸が苦しかった

「…夏目さん」

綺麗に片付けられた夏目さんの部屋
最低限の物しか置いてなくて生活感が全くしないが、薄く漂う甘い香りにここが確かに夏目さんの部屋だということを認識する

夏目さんの綺麗な亜麻色の髪がシーツに散らばる
俺の下にいる夏目さんは少し驚いた表情になったけど、すぐに柔らかく微笑んだ

「どうしたの、古市くん」
「…怖いんです」
「なにが?」
「夏目さんに棄てられるかもしれないって思うと、怖いんです」

溢れてきそうになる涙を必死で堪える
それから何も言えず俯いていたら、夏目さんの手が優しく背中に回ってそのまま胸へ抱き込まれた
夏目さんは寝転んだまま上に乗る俺の髪を優しくすきながら、耳元で囁いた

「どうして?俺は古市くんを棄てたりしないよ」
「でもおれ男だし、どうやっても女の人にはなれないから…」
「そんなこと気にしないで。俺は古市くんが好きなんだから」

夏目さんの言葉に嘘がないことくらい分かってる
でもどうしても不安を取り除けない
夏目さんを、繋ぎ止めておきたい

「だったら……抱いて下さい」

我慢しきれなかった涙が溢れ出す
悲願するように見詰めれば夏目さんの瞳が複雑そうに揺れた

「古市くんはそれでいいの?」
「はい」

本当は不安でいっぱいだ
命を育めないセックスに意味などないかもしれない
男とのそれに夏目さんが興ざめしてしまうかもしれない
それでも俺に出来る事はそれしかなかった

「……分かった。けどこれだけは覚えておいてね。俺は身体が目的な訳じゃない。古市くんと一緒にいることに意味があるんだ」

そう言って夏目さんは悲しそうに笑った








「は、……ぐ…ッ」

股から身体が真っ二つに裂かれるようだった
夏目さんと一つに繋がった事に喜びを感じる暇もないほど、断続的に痛みが襲ってくる

「大丈夫、力抜いて」

涙でぼやける視界の中で眉を寄せた夏目さんが優しく微笑む
いたわるように瞼にキスを落とされて、少しだけ身体の力が抜けた

「ッ、動くよ…」

切羽詰まった夏目さんの声の後に、下半身から断続的に衝撃が与えられる
堪らず首をそらしてか細く喘ぐ
組織的に無理な行為に身体は悲鳴を上げているが、それとは裏腹に心は幸福で満ちていた
最中でも俺の身体をいたわる夏目さんの姿に、愛されているんだと実感出来たから

「…好きだよ、古市くん」
「あっ、ん……ふぁッ…!」

いつかこの行為にも慣れることが出来たなら、夏目さんの優しさに身体全部で応えたい
最奥に熱が放たれたのを微かな意識の中で感じながら、ゆっくりと目を閉じた

暖かなぬくもりに抱き締められる
それはきっと、幸せが産声を上げた瞬間




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