暗闇の中で瞳を閉じれば今日の出来事がめまぐるしく瞼に写った
目の前の人間たちが繰り広げるのは、他愛もない学生ライフのそれ
ただ少しだけ違うのは些か他よりも過激なシーンがちらほらある事なのだが、もうこれはご愛敬と化してるのだから仕方がない

自分の網膜に焼き付いた鮮明なビジョン
登場人物は皆ひと癖もふた癖もある、もはや馴染みの深い人ばかりだった
個性豊かな人々が織りなす教室の風景は新喜劇も顔負けするほどに騒がしく忙しなく、そして新鮮であった


昔から俺たちの間に割って入ろうとする変わり者は珍しく、集団生活の性質上俺たちはいつも二人でつるんでいたからここまで無遠慮に介入してくる人物は居なくて、突然広がった世界に戸惑いはしたがそれ以上に嬉しかった

たくさんの、それこそ学年を問わず男鹿以上に濃い人たちと日々を過ごすのはとても新鮮で有り余っていた好奇心を満たしてくれる
とても普通とは言えないクラスだけど俺は楽しければ回りの目なんかどうでもよかった


また今日も俺の瞼をスクリーン、鼓膜をフィルムにして一人だけの上映会が始まる
そこに映るのは美しいレッドテイルのお姉様たちやガンを飛ばして来るむさ苦しい先輩方、そして小学校から変わらない寝癖の目立つ黒髪の後ろ姿だった

男鹿は眠たそうに大きな伸びをし、欠伸を噛み殺している
隣にいた邦枝先輩が少し頬を染めながら男鹿に何かを言った
それに生半可な返事をした男鹿に寧々さんがキレて、前の席の神崎がうるせぇーよとガンを飛ばし、何故か男鹿は東条と喧嘩を始め出して、呆れた姫川は携帯を弄り、夏目さんはおかしそうに行く末を見守っていた

そんな光景を慣れた様に眺めつつ、目線は自然と幼なじみの方へと移る
俺がこの上映会で見るのはいつもあいつの背中ばかりだった
登下校中、半歩前を行く姿勢の悪い背中
授業中、終始机に突っ伏している赤ん坊を背負ったままの背中
そして喧嘩中、決して折れる事のない頼もしく大きな背中

俺はずっとこのクラスの“背中”を見てきた
中には既に傷を持った奴もいたが、一人もその後ろ姿が崩れる事はなかった


いつか屋上で見た六騎聖との対決の時
真っ先に乗り込んでいった男鹿は勿論、なんだかんだ言いながらやってきた姫川、瞳の奥に静かに闘志を秘めた夏目さん、凛とした面持ちで佇む邦枝先輩、負傷した身体でなお闘おうとした神崎……その誰もが大きな背中にたくさんの物を背負っている様に見えた

そして俺は一生、あの人たちの横に立つことは出来ないのだと悟った


瞼に移るビジョンの中で騒ぎ合ったとしても、この人たちが抱えているものを俺が共有する事は出来ない
そうやって気持ちがちょっとずつ、少しずつ取り残されて行く


悲しくはない

今まで喧嘩に行ってくる男鹿の背中を何十回何百回と見てきた
見送る背中が増えるだけだ、後は何も変わらない変わるはずがない
そういつも自分に言い聞かせて来た
それでも胸の奥に潜むわだかまりが取れる事は無く、宛の無い不安を抱えたまま毎晩瞼を閉じる


ようやく瞼を開けたところで枕元の携帯のディスプレイを開いた
目を細めながら右上にうつる時計を確認する
狂う事のないデジタル時計は5時18分を示していた

そっと携帯を閉じカーテンの隙間から確かに覗く朝日を見詰め、ゆっくりと息を吐き落胆した


また今日も眠れなかった



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