固く冷たいアスファルトを押し退けて強く根を張るたんぽぽの生命力に憧れていたのはいったいいつからだったのか記憶を掘り返しても答えは一向に出なかった

柔い朝日にあてられながら靴を鳴らせていれば古い家屋の影にひっそりと咲いていたたんぽぽを誤って踏んでしまった
どうしてかこの花は強いようで弱くて頭に執着した「儚い」の一文字を拭う事が出来ない
あっと声をあげれば案の定皮の靴底に不釣り合いな黄色い花が咲いていた
でも過程がどうあれ最終的にはあっけなく散ってしまうたんぽぽを何故か俺は嫌いになることが出来なかった


親戚からダンボールいっぱいに大きな向日葵が送られてきた
向日葵畑を経営しているとかで立派に花弁を開いてるその様に思わず納得する
あまりの量に母さんは近所の人に分けて回っていたり妹はひたすら両手いっぱいに向日葵を掲げてはしゃいでいた

ようやく空になったダンボールを覗いてみれば、そこには花だけくっきり折れた向日葵
他のより一回り小さめだけどやはり立派に花を広げていた
手にとってきめ細かな花びらを見つめていれば妹に銀髪に黄色は凄く綺麗だと騒がれて結局妹の気が済むまで俺の頭には向日葵が飾られた

母さんや父さんにもまるで七五三の時におめかしした女の子みたく綺麗だ綺麗だと惚けるように呟かれて正直居心地が悪い
自分の家で縮こまるように座っていた俺の元に案の定というか予想通り男鹿がやってきた

「……………」
「…なんか言えよ」

照れるから、とは言わない
男鹿は少しだけ目を見開いてこっちを凝視してくる
合わさった視線をなんとなく外す事が出来ず数秒間、俺にとっては永遠に感じられたその一瞬だけ世界が止まった

「お前ってやっぱ黄色似合うな」

デケー向日葵、と言いながら天然の髪飾りを掌に乗せる
妹の言葉も知らん顔でようやく七五三タイムは終了だ

「向日葵好きなのお前?」

あまりにずっと向日葵を見詰めていたので聞いてみる
もしかしたらさっきの反応は俺より向日葵の方だったのかなと女の子みたいな良くわからない思考に絡め取られてなんとなくむかついた

「あぁ…まぁ、嫌いじゃねーけどやっぱ」
「やっぱ?」
「同じ黄色い花だったらたんぽぽの方が好きだな」

蒲公英
男鹿からそんなかわいらしい花の名前が出てくるとは思わなかったので遠慮なく吹いてしまった

「お前からそんな小さな花が出るとは思わなかった」
「大きさなんて関係ねーだろ。たんぽぽって強いイメージがあるんだよな、なんとなく」
「まぁ英語でダンデライオンっつーもんな」

こんな小さな、あわよくば雑草と同じ部類に入りそうな花に何故百獣の王の名前が入っているのか不思議だったが、それを差し置いても男鹿にたんぽぽは合わなかった

「あとお前に似てるから」
「は?」
「踏まれればすぐに潰れる癖にアスファルト押し退けて根を張る強さとか、枯れる時は綿毛に種乗せて綺麗に散っていくとことか」

なんとなく古市に似てる、だから好き。

瞬間身体中の血液が沸騰したのを感じた
こんな口説き文句誰も言えないだろう
と言うか不器用で天然な男鹿らしいっちゃらしーけどこれはあまりにも不意打ち過ぎだ
池で餌にありつく鯉の様に口をぱくぱくしつつ顔は見事に茹でたこになり、それを隠す術も余裕も俺にはなかった

「なんで顔あけーんだお前」
「だ、だってお前それ…俺の事が好きだって言ってるようにしか聞こえねーんだけど…」
「あ?よくわかんねーけど古市もたんぽぽも好きだぞ」
「……ッ、しね」

死にそう
このまま顔が暑くなって爆発しそうだ
そんな間抜け面を見せる訳には行かず苦し紛れに手元のクッションを男鹿に投げつけたがうざい位上手くキャッチされた

「……俺もたんぽぽ好きだけど、ただ…な」
「なんだよ」
「花言葉。前に女の子から教えて貰ったんだけどお前知ってる?」
「知るわけねーだろ」
「だよなー」

男鹿だもんなーと言いつつふとそこで違和感を覚えた

「あれ、ベル坊は?」
「…あぁ、ちょっと体調悪くてヒルダと家だ」
「え、離れていいのかよ」
「大丈夫だ。前と同じで風邪ひいた時は15m以上離れられるぞ」
「そーいう問題じゃねーだろ!ついててやれよ仮でも親なんだろ」

グイグイと玄関まで背中を押してやれば渋々男鹿は靴ひもを結び出す
全く大変な時になんで俺の家なんかにと思う反面、何か大事な用があったのかと思い聞いてみる
そーいえば最近アランドロンのおっさんも見てない

「特に無い、けど…」
「無いのかよ」
「別に用がなきゃお前んち行っちゃいけねーのかよ」
「だからそーいう訳じゃ…」
「古市」

ずい、といきなり至近距離に男鹿の顔があって言おうと思った言葉が遮られる
びっくりする間もなく唇に感じた温度が男鹿のそれだと気付いた時には玄関の堅い壁に縫いとめられていた


           


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