振り返ってみれば俺の素行はそれはそれは人道を外れたいわゆる「卑怯」と言うもので常人にしてみれば堪らず眉をしかめるものだった
けど回りがどう思ってたって所詮自分のこと
家柄人間がどこまで汚くて卑怯なものであるかこの歳にして嫌って程知ってしまったんだから仕方無い
俺に言わせれば淡い理想論をぶちまけ合うその光景こそが虫酸が走って反吐が出るってもんだ

「お前そんなことばっか考えててつまんなくねーの?」

俺の喧嘩はいかに相手の弱味を握って優勢に立つかと言うもので馬鹿みたいに真正面からぶつかって行く神崎のそれとは対象的に近かった
高級なソファにふんぞり返って80円の白い液体を飲みながら言うのはなんともおかしな光景でけど一番アホなのは神崎自身であることは間違いない

「考えもなしに突っ込んで行くどっかの馬鹿よりかは裏でしこしこ計画練ってた方がまだマシだろうがな」

刹那物凄い勢いで飛んできた大理石の灰皿を危なげなくキャッチする
お前これ俺じゃなかったら完璧死んでたぞ

「はん、んなオタクみてぇな事なんざして何が楽しいんだかな」

そう言ってチッ、とわざらしく舌打ちしやがったから灰皿を机に戻して神崎の座ってるソファの縁に手を掛けた
見下ろせばそれ以上にきつい目線が返ってきて背筋がゾクゾクする俺はもう末期なのかもしれない

「俺に言わせればお前みたいな喧嘩は負けに行くもんだぜ」

結論から言えば無謀に突っ込んで行っていつもボロボロになるのは神崎の方だ
だったら迅速になおかつ穏便に終わる喧嘩の方がエコノミーだろう

片手で神崎の顎を取って挑発的に言い放つ
口でこいつに負ける自信はないからうまく言いくるめてそのかさついた唇を塞いでやろうとか企んでる俺は人道を外れてるだって?うるせぇ

「…怖いだけだろうがテメーは」

でも今日に限ってこいつは挑発に乗ってこない
静かに悟った様に言い放つ
代わりに思わぬ反撃をくらって目を見開いたのは俺の方

「負けることも喧嘩することも怖いんだテメーは。真正面からぶつかって行かないんじゃない、行けないんだろ」

顎を掴んでいた手首を逆に強い力で掴まれた
この細っこい手のどこにこんな力があるのか俺は知らない

「ヘタレが、はげ死ね」

いやいやはげ死ぬってどういう死に方だよとかそもそもお前にヘタレとか言われたくねーよとか色々思考が働いたが唇から言葉は出なかった
その猫背が豪快な音をたてて扉を閉めるのを目で追うことすら出来ずに突っ立ったままククッと喉の奥で笑う、だせぇ野郎

けど腐りきった胸の奥でもうとうの昔に忘れたと思っていたほのかな熱を感じて、あぁ俺はまだ真っ当な人間なんだと安心する自分がいて余計にダサく感じた



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