「古市、これ見てみろよ。俺たちのこと、記事に載ってやがる」
「誰が自分の黒歴史なんざ見るか!」


あの後、タキシード姿の俺を怪訝そうに見る人たちを避けるように、なんとか追手を撒き、近くのホテルに泊まった。積もる話も山ほどし、その後男鹿に押し倒されたので、結局昨晩は寝かして貰えなかった。なんだか挙式をドタキャンしたのに、うっかり教会でキスして初夜まで迎えてしまって、おかしな気分だ。男鹿が読め読めしつこいので、仕方無く腰を擦りながら新聞の活字に目を通す。


『――――“花婿、お姫様抱っこで連れ去られる”』


『X月X日、都内某所の結婚式場で、花婿が突如式に乱入してきた男に連れ去られる前代未聞の事件が発生した』


『連れ去られたのはXX会社の社長令息、古市貴之さん。連れ去った男は、貴之さんの高校時代の友人と思われる』


『これを受けて同じ社長令嬢の花嫁は冷静にこうコメントした』


『――“あの方が選んだ道なので、私は何も言いません。ただ、あの方が私を選ばなかったのを後悔するくらい、幸せになってやるだけです。清々、そうならないように、どうかお幸せに―――”』


小さな記事はすぐ読み終わった。堪らなく暖かい気持ちになる。


「男鹿」
「ん?」
「頑張るよ、俺。だから…うんと幸せになろうな」


傍らに立つ男鹿にそう言えば、あたり前だ古市ばかめ、と赤い顔のまま頭を乱暴に掻き回された。

とりあえず、立てるようになったら真っ先に両親に会いに行こう。たくさん謝って、全部話そう。迷惑掛けた人たちにも、時間はかかるけど謝って、話して、理解して貰おう。
どんなに時間が掛かろうと、どんな困難が襲って来ようと、傍らに立つこの存在さえ有れば、俺はきっと迷わない。今度こそ、強く居られる。

だから、もう会うことの無いだろう貴女へ。最後にただ一言。


「貴女に幸あれ――…葵さん」





12'0207





pixivのおがふる結婚企画に参加させて頂いた作品です。神々しい作品が並ぶ中、駄作が一つ…。ふいにこんなパラレルが書きたくなります。“タキシード姿の古市を男鹿さんが颯爽とお姫様抱っこ”と言うのがテーマだったんですが、どうしてこんなに長くなったのか。ちゃんとプロット立てようと思います。長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。