結婚式前夜の夜。仕事と式の最終確認に追われた俺がようやくベッドに入ったのは、とっくに日付を跨いだ頃だった。彼女を心から愛する事はやはり出来なくて、身体の関係も結局ままならなかったが、それでも傍に居て心地よい存在だった。こんなどうしようも無い自分を諭して、包み込んでくれる。
明日で偽りの恋人が終わり、偽りの夫婦になる。響きは悪いが、それでも彼女に幸せになって貰うために出来る事はなんでもしようと俺は何時からかそう強く思えるようになった。
そんな時だった。ベッドヘッドに置いた携帯が静かに着信を告げる。


『貴之さん、今大丈夫かしら』
「うん。けど、どうしたのこんな時間に」
『お願いがあるの。私、出逢いから貴之さんには散々振り回されたから、明日だけは私の言うことを聞いて欲しいのよ』
「明日って…そもそもそんな事で良いのかい?」
「ええ、充分よ。明日は私たちにとって一番大事な日ですもの」


それではまた明日、お休みなさい。彼女はそう静かに通話を切っただけだった。