※みじかい




「僕の担当で居てくれさえすればなんでも差し上げますよ」


にっこり、そんな形容詞がすとんと填まる笑みで七峰くんは謳った。
彼の言葉は歌手や小鳥のそれとは比較出来ないほど軽快に弾む。
とてもご機嫌のようだ、表向きは。


「ただし、」


その言葉さえ聞かなければ俺はずっと彼の隣に居れたのに、なんて。






頼めばなんでもしてくれた。
年下の彼は地位も名誉も尊厳も俺の遥か上を歩んでいて、それでいてこんなしがない担当のためになんでもしてくれた。
七峰くんにとって俺はそこまでするほど価値がある人間なのだろうか。
そんな二秒で結論が出る問いを、今まで何十何百回と繰り返したのだろう。



目の前の七峰くんの端正な顔から滴る汗が、その細い顎を伝って俺の胸に落ちた。
素肌につぅ、と流れるその感触にあざとい身体は柔い快感で粟立つ。
そんな俺に気を良くしたのか、下腹部から伝わる衝撃が強くなり、抑えきれない喘ぎが漏れた。
眼鏡のレンズを外した先の世界はいつも、彼で溢れてた。決して手は伸ばしてくれないくせに、差し伸べた手を優しく掴み返してくれるのだから、もうなにがなんだか分からないよ。

つらい振りをしながらどさくさに紛れて彼の背中に手を回した。
そうすれば労るように彼の指が髪を撫でてくれるのを、知ってるから。
ああなんて、あざとい、身体。

虚無で溢れ返ってる世界で、それでも貪欲に求めようと足掻く。
本当に欲するものが最初から存在などしていないのを知っていながら。
実に滑稽である。

それを知らしめてくれるのが、全てをやり終えた後のこの時間。
甘いピロートークなど微塵もない、と言うより期待など最初からしていない。
だって最初から無いのだから、実を言うと俺たちが抱き合う理由すらないのだから。
ただ伸ばせば掴む、そんな至極あっさりした関係。
そんな至極残酷な関係。


「ただし、愛情以外なら」


圧迫も温かみもない羊水で溺れた、そんな悲しみに似ている。





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