※誰も報われません




不毛な恋だった。
腕をいくら伸ばしても手首に付けられた手枷がそれを拒む。
逃げ出そうとしても足首に嵌められた足枷が歩く事を許さない。
好きだと叫びたくても首を圧迫する首輪に喉笛を潰される。
俺に許された事などもはや何の一つもなかったのだ。









「小杉」


あぁまた呼ばれてしまった。
振り返らなければいけない。
その声の主に、服部先輩の方に顔を見せなければいけない。
全身に纏わりつく鎖を絡ませながら、身体を向けなければならない。


「なんでしょう?」


あぁ良かった、笑えた。
我ながら至極いびつな笑みを浮かべた気がする。
その証拠に目の前の服部さんの眉が怪訝そうに寄せられたから。


「私生活に口を挟むのは野暮かもしれないが、最近顔色悪いぞ。ちゃんと寝れてるのか?」


それに少し痩せたぞ、と元々無かった筋肉が更に薄くなった肩に手を置かれ、不自然なくらい身体が跳ねた。
その俺の異常な反応に驚いたのか直ぐに肩から温もりが離れる。
悪い、と心底申し訳なさそうに呟く服部さんにいえ、とこれまた素っ気なく返してしまう。
だって服部さんは知らないんだ。
いま手に触れたシャツの下には、おぞましい行為の痕がこれでもかと残っている事を。
ぎりぎり見えない胸元には無数に散らばる赤い痕、袖に隠れた手首には荒縄で縛られた痕、背中には思い切り噛み付かれた痕。

おぞましい。
行為そのものより自分の身体に残る凌辱の証が、何よりも汚らわしく見えた。
鏡に写る自分の身体に虫酸が走り、必死に消そうと痕に爪を立てても、冷たいシャワーの水に紅が混じるだけだった。


「最近ようやく七峰くんとコミュニケーションが取れてきて、少し張り切ってるだけですので」


その名前を言うときに声が震えないよう、細心の注意を払った。
たぶん、いや絶対に気付かれてはないと思う。
その証拠に服部さんはそうか、と緩く笑った。
ぱさついた髪の毛をその優しい掌が労るように撫でてくれる。
あぁ、やっぱり好きだ。


「服部さん…」


好きだなんて言える権利、俺にはないのに。
それでも手が、足が、声が、心が、あなたを欲して蠢く。
決して千切れない鎖から逃れようともがく。
あなたのためなら肉が裂けても構わないと思った。
異常だ。
非現実的な仕打ちを受けた身体はもう、壊れてしまったのだろうか。
それでも頭はあなたでいっぱいで、あなたしか考えられなくなってしまって、少しだけ幸せだと感じた。
アブノーマルである。


『小杉さんが服部さんを好きなことくらい知ってますよ』


手が伸びる。
どこかでぷちん、と切れる音がした。


『いいんですよそれでも。むしろその方が僕も楽しめます』


足を踏み出す。
なにかがぐにゃり、と壊れる音がした。


『僕に犯された身体で抱かれたいなら、いつでも服部さんの元へ行けばいい』


息を吸う。
ひゅっ、と耳障りな音がした。


「今夜、泊まってもいいですか?」


この不毛な恋になんという名前を付けようか。


『あなたが壊れてしまいますけどね』


今までの俺は今日、めでたく死にました。





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途中からの服部さん呼びはわざとです。
七小→服部好きです。





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