※事後注意




真っ白なシーツの上で寝返りを打つ。
鈍く痛む腰と下半身に情けなくも目頭が熱くなってしまった。
薄暗い部屋に響くのは、隣から聞こえるシャワーの音。
サイドテーブルに無造作に置かれた眼鏡を手探りでとり掛けると視界がクリアになった。
同時にはっきりと認識出来るいまの光景。

どうしてこんな事になってしまったのか、自分の中にいくら問うても答えは一向に浮上しない。
突然強引に押し倒され、着ていた服が床に捨てられたのを、ただ呆然と見ていることしか出来なかったのだから。


『僕のやり方に従うと言いましたよね』


言葉とはこれほどの力を持っているものだろうか。
ただ、ほんの一言で、俺の身体の全機能は活動を休止した。
それからはただ、七峰くんの思う通りに動く人形も同然で。



つぅ、と太ももに伝う冷めた熱にビクリと肩が揺れる。
後始末もないただ嬲られるセックスだけ。
それでも貪欲に快楽を拾った身体が浅ましい。
悲しみと悔しさと情けなさはとうにピークを過ぎたみたいで、もう涙さえも浮かんではこなかった。
全てを忘れたくて、全てから逃げたくて乾いた体液の散らばるシーツにくるまった。
薄い布一枚被ったところでなんにもならないことは知ってても、今はもう誰にも会いたくなかった。



〜〜〜♪〜♪



けどそんな思いとは裏腹に、床に転がるズボンのポッケの中から軽快な電子音が響き渡る。
そっとシーツから顔を出し、七峰くんがまだシャワーを浴びている事を確認してから携帯を開けば、そこにはいま一番会いたくない人の名前。
ひとつ深く深呼吸をしてから通話ボタンを押した。


「もしもし…」
『小杉、いま時間大丈夫か?』
「はい、大丈夫です」
『悪いんだが今から会社に来てくれないか。印刷所のミスでちょっとごたついてて人手が足りないんだ』
「分かりました、今から行きます」
『助かるよ。もしかしていま七峰くんのところか?』
「はい、なので30分もあれば行けるかと」
『そうか。ところでお前風邪か?声掠れてるぞ』
「……ちょっと風邪気味で」
『こっちから頼んでて言うのもなんだが、無理はするなよ』
「はい、大丈夫です。では」


極力こっちの動揺を気付かれないようにして会話を済ませる。
服部先輩は勘の鋭い人だ。
きっとそれは編集者として身に付いたスキルかもしれない。
些か痛む喉を押さえながら冷たいフローリングにつま先を着ける。
早く服を着て編集部へ戻らなければ。
とにかくいまは一刻も早く日常の欠片を感じたかった。


「どこへ行くんですか?」


腰を浮かせた不自然な体勢のまま、身体が硬直する。
振り向けば風呂上がりで髪を湿らせた七峰くんが佇んでいた。
咄嗟に床に散らばる服をかき集める。


「っ…編集部に、戻るよ」
「誰と話してたんですか?」


電話まで聞いていたのか。
全く気配に気付かなかった数分前の自分に叱咤しつつ、なるべく平静を装って服を身に付けていく。
ボタンに触れる指先が震えているのはきっと寒さのせいだ。


「……服部先輩だよ。亜城木くんの担当の…」
「あぁ、有意義の連載が決まった時にいた人ですか」
「トラブルが起きたみたいだから、僕は編集部に帰るよ」


あくまで平静に。
目を見てしまっては終わりだ。
あの瞳にうつる自分の姿を見てしまったら、今度こそ戻れない。
急いで服を着て無言のまま足を踏み出す。
バクバクと鳴る心臓をどうにか押さえ付けて、七峰くんの横を通り抜けようとした時だった。


「小杉さんは僕より服部さんの方に従うと?」
「!ちが……っ」


しまった。
そう思った時には遅かった。
右手首を掴まれたかと思ったら、ずるずるベッドまで引き摺られる。
七峰くんの手を引き剥がそうと試みるが、筋肉の全くついていない軟弱な身体では勝負にならず、更には腰痛で立っているのもやっとの状態だ。
まともな抵抗すら出来ないまま、ただ七峰くんに成すがまま引き摺られる。
乾いたシーツが視界に入り、先程のおぞましい光景がフラッシュバックして思わずひきつった叫び声が漏れた。


「い、いやだ!もうこんなのはやめてくれっ!」
「うるさいですよ、ちょっと黙ってて下さい」
「いやだぁ!!ぁっ…!」


思いきり腕を引っ張られてベッドに叩きつけられる。
スプリングの鈍い音が部屋に響いた。
力一杯ばたばたと暴れても、のしかかってくる七峰くんの身体に全て封じられてしまう。
視界がぼやけているのは眼鏡がずれたせいだ。


「ぅっ……」
「小杉さん、あなたの全ての権限は僕が握っているという事を忘れないで下さい」


手首を押さえ込む力が血液を圧迫する。
酸素が体内に行き渡らず心臓が激しく鼓動していてうるさい。



もう限界だった。
なにも見たくない、なにも聞きたくない。
近付いてくる七峰くんの顔を避けるように横を向いた。
まだ抵抗するんですか、とどこか楽しそうに歌うように七峰くんは呟く。
首筋にぬめった舌先が這う。
シャツの裾から長い指先が脇腹をくすぐる。
施される愛撫が、着々と心臓の皮を剥いでいくようだった。






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誰か彼らに愛をログインしてあげて下さい。
くさいとか言ってる場合じゃないよいやほんと。
こっそり七→小(→)服部を意識しました(小声)






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