「呼んだ?先生」
「えっ、」


叶うはずのない願望は、何故か真っ正面から現実となって俺の前に現れた。
びっくりし過ぎて瞬きも忘れて突然目の前に現れた男鹿に、もしかして俺の想いが強すぎて出来た幻覚なんじゃないかと凝視するが、ドライアイ気味の眼球が悲鳴をあげてはっと現実に戻る。
さわさわと心地よい風が汗の滲む身体を撫でる。男鹿の背後から差し込むのは、薄暗い廊下を照らす眩しいくらいの西日。闇雲に走ってて気付かなかったが、そうだ、ここは屋上に繋がる扉だった。


「俺、なんか先生に呼ばれた気がしたんだけど?」


形だけは疑問系だがその表情は明らかな確信を持っている。いつになく柔らかに微笑む男鹿に先程とは違う種類の痛みがどくん、とあばらを押し上げた。


「え、と・・・その、最近顔を見ないなって思って」
「だって先生、俺の顔みたらすぐ逃げるじゃねーか」
「それはそうだけど、」
「放課後の補習も無くなったし、俺てっきり先生に嫌われてんのかと思ってたんだけど・・・先生男なのに、俺キスまでしちゃったし」


ぶる、と汗が冷える震えとは違う種類の振動が脊髄を刺激した。
改めて言われるとその行為は排他的でしなかい。その事実を男鹿本人から突き付けられて、俺は身体に落ちる男鹿の影に絡みつかれたように動けなくなってしまった。
不毛かもしれない。それでも、俺は―――


「・・・嫌い、じゃ、ない」
「え?」
「男鹿のことは、嫌いじゃ、ない・・っ」


一世一代の精一杯の告白は、蚊の鳴くそれよりも小さくて弱々しかった。俺ってやっぱりへたれだな、と悲しむ反面、男鹿にちゃんと伝わったのかという不安がよぎる。
おそるおそる伏せていた顔を上げれば、そこに広がった意外な光景に、今度は俺がえっ、と声を上げる番だった。


「・・・・ったく、こんなの反則だっつーの」


そう呟いた男鹿の顔は、照りつける西日に負けないくらい真っ赤に染まっていた。
横にそらされた目の間には皺が寄っているが、それが恥ずかしさから来るものなんだと理解した途端、かぁぁと自分の頬も熱くなったのが分かった。


「あんた、ほんとかわいすぎ。あーもーなんなんだよ。俺の事は嫌いじゃないってそれ、俺の事が好きだって言ってるのと同じだってわかってんのかよ」
「お、俺はそんなふうには言ってない!」
「だからあんたに自覚はなくても俺にはそう聞こえるんだっつってんだよ」


だからどうしてそんな解釈になるんだ!
俺も大概あれだけど、こいつもかなり妄想力半端じゃないと思う。
いやそんな事より、男二人がこんな人気の無いところで顔を真っ赤にして向かい合ってる時点でおかしい。うんかなりおかしい。これは教育的撤退を試みた方がいいと、赤い顔のまま踵を返そうとした。


「おい、どこ行くんだよ」
「ちょ、放せよ!」
「馬鹿じゃねーの。この状況で帰ろうとするか普通」
「状況ってなんだよ」
「俺と先生が両想いになったっていう、とてもメルヘンチックな状況」


本当に憤死するんじゃないかと思うくらいに、顔が熱くなったのが分かった。
いくらか馬鹿にしたような口調の男鹿にも腹が立つが、なにより先ほどまでの真っ赤な顔はどこへやら、ちゃっかりいつものポーカーフェイスに戻ってやがるのが一番腹が立つ。


「馬鹿はお前だ。仮に・・・お、俺とお前がりょ、両想いになったからって、教師と生徒がそんな関係になれると思うか!」
「今どき当たり前だろんなの」
「根拠はどこだ根拠は!とにかく駄目なもんは駄目だ。曲がりなりにも俺は教師だ。それだけは教師の尊厳に掛けて許可は出来ない」


半ば自分に言い聞かせるように呟く。いくらなんでも、これは俺の気持ちだけで突っ走っていい問題じゃない。何より男鹿のためにならない。
抱いてはいけないはずの想いを吐露してしまったのは許して欲しい。だけどそれ以上先は、どんなに自分が望んでいたって踏み込んではならない領域なんだ。

男鹿はそんな俺の言葉に不満そうな顔を見せたが、頑なな俺の意志を読み取ったんだろう。一つ息を吐いてから真剣な顔付きになった。


「分かった。俺が生徒でいる限り先生に手は出さねーよ。ただし好きだって気持ちまでは抑えるつもりはねぇから」
「男鹿・・・」
「そのためにも留年なんかしないで早く卒業しなきゃいけねーな。だからまた、勉強手伝ってくれるよな、先生?」


先生と生徒と言う関係が無くなったら、その時にまた改めて迎えにくる。そう言ってくれた男鹿に対して、今度は俺もはっきり頷く事で応えた。


「あ、その前に先生にご褒美あげねーとな」
「は?なんだよそ、・・んんっ」


言い終わる前に素早く顎を取られて少しだけかさついた唇が落ちてきた。久しぶりに感じた温もりを甘受しつつ、これって俺に対するご褒美より、男鹿自身に対するご褒美じゃねーのかよと心の中で突っ込みを入れる。
けど少しだけ高い位置にある男鹿のちょっと癖の入った柔らかそうな猫っ毛や、閉じた瞳に乗る髪と同じ色の睫毛が意外に長いのを見ていたら、なんかもうどうでも良くなる。
こういうのが愛しいって気持ちなんだろうか、なんて恥ずかしい事まで考えてしまう羽目に陥ったのは、きっとこいつのせいだ。責任取ってもらうからなばか野郎。卒業したら覚悟しとけよ。


「大好きだ、古市」


年相応に満面の笑みを浮かべる年下の恋人は、照りつける西日より眩しく見えて思わず目を細めた。





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ぺこ姉大変お待たせしました!
大好きなぺこ姉に捧げるおがふるなんだと気合いを入れて書いたら、文章の長さにしか反映されなかったという全く笑えないオチですいません・・!
たくさん愛だけは込めました。もちろんおがふるとぺこ姉に←
ぺこ姉大好きですいつまでも尊敬してます!もう言葉に出来ないくらいに大好きです!気持ち悪くてすいませんっ
こんなやつですがこれからも仲良くして頂けると嬉しいです。これからもサイト運営頑張って下さい、応援してます^^
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