※小杉がゲイ
はじめて違和感を感じたのは、僕の連載が決まったあの日の事だった。
控えめな言葉とは裏腹に絶対の自信を持って編集部に押し掛けたその日、服部という亜城木先生の担当が初めて連載作家を持つ小杉さんの頭を励ますように撫でた。端から見れば兄が弟にやるような微笑ましい行為にも思えるが、僕はそう感じなかった。いや、感じられなかった。僕の連載に内心ショックを受け俯きながら、それでも服部さんの掌を甘受してる小杉さんの表情は、ひどく幸せそうに見えた。
そしてただの喜びだけではないその表情の意味を知るまで、あまり時間はかからなかった。
「小杉さんって服部さんのこと好きなんですね」
仕上げたばかりの原稿がその細い指からバラバラと落ちた。あーあ、僕のせっかくの原稿が。まぁその情けない表情に免じて許してやるけど。
「い、いつから…」
「僕の連載が決まったあの日から」
本当はあの日に確信を持った訳ではなかったけど、より優位に立つためにそう言った。あの日は違和感を感じただけで、この結論に至るまでのきっかけでしかない。ただあの日から注意深く小杉さんの行動を見て、確信を持てたんだ。
「こ、この事は服部先輩には…」
「さぁ、どうでしょう。いっそのこと告白してしまった方が、いつまでもウジウジしてるよりよっぽど小杉さんの為になると思うんですが」
そう言った途端、目の前の顔が真っ青になった。予想してた通りの表情。いまこの人の頭の中では負の感情が踊り狂っているところだろう。
「お願いだからそれだけはやめて…」
「どうして?服部さんとそういう仲になりたいんでしょう」
「…服部先輩は俺のことそういう風には見てないから」
なるほど、ただの馬鹿ではないらしい。服部さんはこの人をどこかほっとけない後輩、もとい弟のように見ていた。当たり前だ、同性に恋することなどそうそうない。
「不毛ですね。あなたはゲイなんですか?」
「…物心ついた時から女性は駄目だったんだ。あ、でも安心して、俺の好みは年上だから」
この人この期に及んでまで僕の心配をするとは。つくづく馬鹿な人だと思う。
そしてなぜだかその馬鹿さ加減がどうしようもなく腹立たしかった。異端者の癖にこの僕を一人前に値踏みして好みじゃないと言った、この人が。報われない哀れな恋をしているというのに。その恋さえ世間的には認められないものだと言うのに。
気が付けば、男にしては軟弱な身体を組敷いていた。
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たぶん続きます。