情事後の古市はどこか幼い気がする。

昨日の帰り道に借りてきたDVDを見ながら、薄暗い部屋の中ぼんやりと画面を見つめるその白い横顔を盗み見た。こいつが見たいと言っていた新作の恋愛物は、騒ぐ割には出来の良いようには思えない。大体、当の古市は目の前で遠慮がちに手を繋ごうとするカップルよりも、身体を包む倦怠感でいっぱいいっぱいらしいのが見て取れた。

ベッドに背を預けカーペットに無造作に腰を下ろし、近すぎるテレビ画面を見詰める。無意識なのか隣に並ぶ少し低い位置にある肩は、俺へ体重を乗せていた。ほんの少しの暖かい重み。俺は映画に早々飽きて光に反射する銀髪をくるくると弄り出すが、古市はどこか夢うつつ状態のままだ。


「お前、眠いんなら寝てろ」
「だってこれ今日返さなきゃいけないだろ」
「また借りればいいだろ」
「問答無用で押し倒してきた馬鹿はどこのどいつだ」


うっ、と言葉に詰まる。金曜日の昨日、半額セールをしていたレンタル店に行ってそのまま借りてきたDVDを見る予定だった。俺が暴挙に出なければ。

俺はどっちかって言うと淡白な人間だと自負していた。実際そうだった。だけど目の前のこいつだけは例外だった。俯いた時にその銀髪の間から覗くうなじを見ただけでも、身体を駆ける熱を止められない。気がついたらベッドに引き倒していた。恐ろしく白い柔肌を撫でる感触を思い出して、収まったはずの熱が再発しそうで、唇を噛んでなんとかやり過ごす。

一方で古市は実に健全な男子高校生だった。恋人である俺がいるというのに目の前で堂々とエロ本読むのは当たり前、挙げ句の果てには平気でそこいらの女たちをナンパし出す。さすがにこれはスルー出来るものじゃないため、その度にお仕置きをするのだが、あまり効いた試しがない。こいつはきっと真性のマゾなんじゃないかと最近本気で思ってたりする。


「お前だって途中からノリノリだったろーが」
「っ、朝までがっつくデーモンには敵いませんけどね!」


喚く唇も、大きく見開いた瞳も、まだうっすらと赤みが差している。少し掠れた声でぎゃんぎゃん騒いだって少しも怖くない。

叫んだのが腰に響いたのだろう。少し赤い顔が痛みにくしゃりと歪んだ。腰を抑えながら背を丸める古市に少しやり過ぎたか、と反省はするものの、直そうとは思わない。なんだかんだ言って古市もスキモノなんだからな。こんな事言ったらぶっ飛ばされるから言わないが。ああ見えてあの細っこい腕には力がある。誰だこいつが非力だとか言ったやつは。


「おら、大人しくくたばってろ」
「おわっ!」


もはや映画などどうでもいい。少し乱暴にその丸い後頭部を引き寄せれば、力の入らない身体は素直に俺の元へ倒れ込んできた。頭を膝元にがっちり固定して起き上がれないようにすれば、しばらく続いていた抵抗も止んで大人しくなる。情事後の古市は普段より少しだけ静かで素直だ。


「シーツまだ変えてねぇから、ここで寝てろ」
「んなこと言ったって…痺れるぞ、お前のあし」
「余計なこと考えてんじゃねーよアホ」


その時ぽつり、とカーテンの向こうにある窓を何かが叩く音がした。次第に大きくなっていく音と共にどこかじめじめしたにおいを感じる。どうやら天気も今日は家の中でじっとしてろと言ってるらしい。


「どっちみちこの雨じゃ返しに行くのは無理だな」
「…延滞料金払えよ」


そう捨て台詞を吐いてからようやく白い目蓋が閉じられた。全く、可愛くないやつめ。次第に強くなる雨音は映画のBGMを掻き消して行く。テレビの電源を切れば、まだ昼だと言うのに部屋は再び暗闇に包まれた。

聞こえるのは忙しなく窓を叩く雨粒と、静かに聞こえる規則正しい寝息のみ。今日は土曜日、まだ明日も休みだ。きっと明日は晴れるだろう。そしたらまずDVDを返しに行って、またチャリでふらふらと宛もなく二人で出かけるのもいい。荷台に腰掛ける古市が段差を登る度に痛いと喚くのを、せいぜい笑ってやろう。

いつの間にかお互いの体温を分け合った身体は、シーツの中でのそれと同じだった。




メルトダウン

(崩壊、そして融解)






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -