※オリキャラ注意



「おい、そこのあんたちょっと」


背後から掛けられた声に振り返る。
太陽を背に立っているその人物は、俺より軽く頭一つぶんくらい背が高い。


「やっぱ古市じゃねーか」


久しぶりだな、と綻んだその顔は、夏に咲くひまわりに似ていた。





「島崎?」


コロッケパンを口に運ぼうとした男鹿の動作がピタリと止まった。
その背に引っ付くベル坊は背後から目一杯手を伸ばしてコロッケパンを掴み取ろうとするが、リーチの差に阻まれる。


「そう、シマだよ。硬中の時一緒のクラスだったろ?サッカー部のキャプテンで背のたけー爽やかなやつ」


おまけに島崎はその甘いマスクと持ち前の明るさで女子にかなりもてた。そりゃもうこっちが泣きたくなるくらいに。


「あぁ、いたなそんなやつ」
「珍しいじゃねーか、お前が対して関わりもしなかった人のこと覚えてんの」
「うるせーよ。俺はともかくよくお前あいつとつるんでたじゃねーか」
「まぁ、よくって言うかほどほどだけどな」


お前との腐れ縁に比べれば大抵の人との交流なんて上辺みたいなもんだとは、なんだか悲しくなりそうで言えなかった。


「コンビニ行くときに偶然会ってな、でかいエナメルのバック持ってジャージ姿で、少し話したけどサッカーの強豪校のキャプテンやってるんだってさ」
「帰宅部の俺たちには無縁の話だな」
「石矢魔は学校全体で一つの部活だろ。喧嘩部っていうな」


ま、俺以外の人間の話だけど。
島崎は相変わらず超が付くくらい爽やかで、旧友と久しぶりに会って本当に嬉しそうな顔をしていた。
それを見てやっぱこいつもてるんだろうなー、なんて俺の中にある男の性がうちひしがれたけど。
けどそれ以上に島崎はいいやつだった。
学年に一人はいる誰からも好かれるムードメーカーそのものだ。


「その時は近くの学校とたまたま練習試合があってこっちに来てたらしいんだけど、来月にも練習試合をこっちの方でやるからその帰りに少し遊ばないかって誘われたんだ」


だからお前も一緒に行かないか、と紡ぐはずだった唇はしかし、目の前の男鹿の険悪な表情により固まった。
元々仏頂面な男鹿だけど伊達に長年付き合っていない、これは超絶虫の居所が悪い時の表情だ。
けどあれ、俺いまこいつの地雷踏むようなことしたっけか?

しばらく沈黙が俺たちの間を縫って、男鹿の瞳がギロリとこっちを向いたときに思わず肩が跳ねてしまった。


「……いや、あいつと遊ぶのは止めとけ」
「は?」


思っていたより落ち着いた声に安心しつつも、出てきた内容に間の抜けた声が出てしまう。
男鹿は少しだけ難しそうな顔をしながら続ける。


「試合で疲れてるやつらと遊ぶなんて迷惑だろ。真っ直ぐ家に返して休ませてやれ」
「それは俺も思ったけど誘ったのはシマの方だし」
「とにかくあいつと遊ぶのはやめとけ」


有無を言わせない口調だが、男鹿の言ってることはめちゃくちゃ過ぎる。
俺だって昔の友達とせっかく会えたんだから、この約束は簡単に蹴りたくない。


「なんで友達と遊ぶのにお前の許可が必要なんだよ。彼女かテメーは」
「彼女じゃねーが彼氏だぞ」
「〜〜〜〜っ!」


こ い つ は !!
なんでこんな恥ずかしい事をさらりと言ってのけられるのだろう。
俺だったら恥ずかしすぎてとっくに噴死してる。あ、いや相手が女の子なら全然別だけど。


「だったら尚更だバカ野郎。こんな独占欲タラタラな彼氏よりシマみたいな爽やかで笑顔の似合うやつの方がよっぽどマシだ!」
「!」


しまった。
そう思った時には遅かった。
あれだけ険しい表情だった男鹿の顔が拍車を掛けてさらに厳しいものになる。
背中に嫌な汗が流れた。


「そうかよ。じゃあ島崎に気に入って貰えるようにせいぜい色目でも使ってな」
「ッ!!」


下がっていたはずの血がカッと頭に登った。
気が付けば衝動のまま男鹿の頬を張っていた。
パシン、と後から乾いた音が鼓膜に届く。
しまった。と今日二回目になる単語が頭を過った。
無言のままその場を立ち去る男鹿の背中に掛ける言葉が見つからない。
いまさら手を伸ばす権利さえ俺にはないのだから。





「どーしたんだよ古市?」


カラン、とコップの中の氷が乾いた音を発した。
ファミレスのロゴのついたガラスのコップに、島崎の心配そうな顔が写る。


「あ、悪いなんでもないよ」
「ほんとか?なんか深刻そうな顔してたけど」
「気のせいだって。それより試合勝ったんだってな、おめでとう」


誤魔化すようにストローに口をつければ炭酸のシュワシュワ感が口内に充満した。
二人きりでの食事は昔話に花が咲き、いくら喋っても話のネタが尽きない。
島崎は話し上手で聞き手上手だからつい、男鹿と喧嘩してしまった事を言ってしまった。
俺たちの関係まで話してはないが、それでも島崎は心配そうに「仲直りしなくてもいいのか?」と気を使ってくれた。
その問いに何故だか俺は素直に返事をすることが出来なかった。


そして俺はこの時、島崎が今までに見たことないような黒い笑みを浮かべている事に気付かないでいた。






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