自信満々で挑んだ初戦はあえなく惨敗した。このショックはかなり大きかったが、俺は気を取り直して次のターゲットを捜す。そうだ、まだ時間はある。今から着々とポイントを稼げばいいだけなんだ。
その時、校門に深紅のジャガーが停まった。運転手によって恭しく開けられたドアから出てきたのは、俺と同じ髪色のリーゼント…もとい、姫川先輩だった。
派手な登場に周囲から視線を浴びていたが、それをものともしないで歩く姿はさすが大企業の御曹司だと思う。俺は周囲から遠巻きに見られてる姫川先輩の前に踊り出た。
「あ、あの」
「あん?」
サングラスの奥の瞳が怪訝そうにこちらを見詰める。女馴れした、値踏みするような目付きに怯える初心な少女を必死に取り繕う。
「今日のバレーボール対決、頑張って下さい…!その、先輩が必死に練習してるの、陰から応援していて…」
俯き気味だった視線を恐る恐る上げる。上目遣いで気恥ずかしそうに頬を染めれば、落ちない男などいない!それが俺の持論だ。
……って、あれ?なんでいつの間にか俺この人落とそうとしてんだ?
今更ながら自分がこっぱずかしい事を言っているのに気付き、慌てて距離を取る。
「す、すいません変な事言って…っ!それじゃあ、」
「おい、待てよ」
逃げようと踵を翻したら手首を掴まれてしまった。やばい、背中に冷や汗が流れる。ただ普通に話掛ければ良かったのに、ちょっと大袈裟にし過ぎた。もうこの人からポイントはいらない。いらないから離してくれ…!
「離してっ…!」
「頑張れって、お前も試合出るのに何いってんだよ、古市」
「…………へ?」
この感じは、デジャヴ。ああ、東条さんの時と同じだ。
「つーか何でそんな恰好してんだ。ま、俺はこれはこれでいいと思うけどな。スカートの下も女物なのか」
公衆の面前で姫川先輩は俺のスカートの中に手を入れようとした。慌てて自分が女装しているのも忘れるくらい、がむしゃらにその手から逃げる。そのまま周りの好奇な視線から逃れるように全速力で走った。もう、コンテストなんてどうでもいい。烈怒帝留の人たちには悪いけど、このままじゃ俺の身が持たない。
その時、ドンと何かにぶつかって尻餅を付いた。ちゃんと前を見てなかったから誰かにぶつかってしまったらしい。もう踏んだり蹴ったりだ。
「す、すいませ…」
謝ろうと顔を上げ、そして愕然とした。真正面に居たのは今一番会いたくないと言ってもいい、腐れ縁である男鹿だったのだ。
もう、とにかく逃げよう。そう思い腰を浮かしたら、例の如く手首を掴まれて叶わなくなる。
「離せ…っ!」
「おい、なにやってんだよ、古市」
返ってきた言葉は案の定であった。くそ、なんでどいつもこいつもこんな鋭いんだ。自分でさえ別人に見えるこの恰好を、石矢魔の連中はことごとく見破って行く。得体の知れない悔しさと、馬鹿馬鹿しいと言う気持ちで胸がいっぱいだった。
「うっせーよ!笑いたきゃ笑え。どうせ俺は女装なんかしてもむさい男にしか見えないんだろ。だから、みんな騙されないんだ…くそ、馬鹿みてぇじゃないか」
「は?おい古市、何いってんだよ」
「うるさい!もうこんな茶番なんか終わりだ!俺はリタイアする。こんな恰好、一秒でも長くしてられっかっ!」
自暴自棄になった俺は、そのまま身に付けている女物の制服を乱暴に脱ごうとした。慌てて男鹿の手がそれを止める。
暴れた拍子にウィッグが完全に取れて地面に落ちた。俺の身体は力強い男鹿の手にいとも簡単に押さえ付けられてしまった。同じ男なのに歴然とした体格の差に苛つく。得体の知れない怒りや悔しさが込み上げて来て、キッと男鹿を睨んだ。視界が涙で滲む。
「おい、ちゃんと説明しろ。とりあえず落ち着け」
「俺はいつだって落ち着いてるよ!お前にはこんな恰好してる俺が気狂いに見えるかもしれないがなっ!」
俺だって好きでこんな恰好した訳じゃないんだ。気付けよ、ばか男鹿。どんだけ長い間、一緒に居たと思ってんだ。
「あー、もー、仕方ねーなぁ」
「っ、!?」
突然、逞しい腕に抱きすくめられた。ぎゅう、と苦しいくらいに密着させられて動きが取れない。
そのままポンポンと子供をあやすように背中を叩かれた。それに押し出されるように涙が溢れる。ああもう、凄く恥ずかしい。穴が無くても自分で堀って埋まりたい程に。それと同じくらい、知っている体温に包まれて安堵する自分がいた。早鐘を打っていた鼓動が、背中を叩くリズムに合わせて段々と落ち着いて行く。
「落ち着いたか?」
「……うん」
「説明できっか?」
「…俺が女装して、どれだけの人を騙せるかっていう、文化祭の余興で、」
「クラスの女たちに、都合良く言いくるめられたのか」
「まぁ、そんな感じ…かも」
「ったく」
「なぁ、男鹿」
「あん?」
「なんで俺だってすぐに気付いたんだ?お前だけじゃない、他の人たちもみんな…」
「お前がどんな恰好したって直ぐに分かるに決まってるじゃねーか」
「な、なんでだよ…」
「それより古市、みんなってどういう事だ?他の連中になんかされたのか?」
「え、………べ、別に何も」
「おいなんだその間はっ!!」
「されてはないっ!…未遂だったから」
「未遂っ!?誰だそいつは!ぶっ飛ばしてやる!」
「もういいから!これ以上ゴタゴタにしないでくれ!それより…」
「あ?」
「…着替えたい、から…ついてきてくれ」
「おう!」
俺は最終的に他のクラスの奴らではなく、このどうしようもない奴に大敗したのだった。
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Q.どうしてみんな古市だと見破れたのですか?
A.あんな可愛い顔したやつ、男も女もそうそう居ないからに決まってるだろJK
女性と男性の感性って結構違うって聞いたので。
石矢魔女性陣→女装古市全く見分けられない。
石矢魔男性陣→速攻で見分けられる。
てな感じです。美輪さんはどうなんでしょうかね(笑)
智子様、遅くなってしまってすいません><
リクエストありがとうございました!
title 誰花
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