※ぬるいけど痴漢描写有り






男鹿のせいで遅刻すれすれに登校するのはいつもの事だ。もう慣れてる。けど今の状況は一向に慣れない。慣れる訳がない。


(くるしい…)


俺は現在通勤ラッシュで込み合う電車の中にいる。老若男女関係なく押し込まれた車内には、独特の熱気が渦巻く。夏じゃないだけまだマシだ。

駅に着くたびに人の乗り降りによる波に毎度の事ながら逆らえない。男鹿は最初に立っていた位置から決して離れないのに、俺はいつも反対側の扉の方にまで追いやられてしまう。扉と人に挟まれる圧迫感を感じながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
降車駅まで、あと五つの時だった。


「……っ?」


さわさわと腰のあたりを撫でる感触。最初はただ密着する車内で偶然触れただけだと思っていた。当たり前だ、男に痴漢する物好きなんてそうそう居ない。

しかし再び意識を窓の外に戻した時だった。先程とは違い、明確な意思を持った大きな手がさわさわと、俺の背骨をなぞるように触れて来た。嫌悪感と驚きで背中がぞわっと粟立つ。
ごつごつした手がそのまま下に移動する。これはさすがにヤバい、と危機感を感じ、慌てて腕を抑えようとしたが、後ろの人物の行動の方が早かった。ただでさえ圧迫されている中、さらに俺の身体を扉に押し付けて来たのだ。扉と身体の間に隙間をつくるために添えて置いた両手が押し潰され、身動きが取れなくなる。心臓が警鐘を鳴らすように鼓動が早まる。暑い訳じゃないのに汗が止まらない。どうしよう、どうしよう。


「あっ…!?」


男の手がズボンからワイシャツの裾を出し、その隙間から直接素肌に触れてきた。その冷たさにびくんと身体が震える。誰か、助けて。でも気付かれたくない。でも嫌だ。こんな、無抵抗のまま同性になぶられるなんて…


「声出したら、周りに気付かれるよ…?」
「ひっ!」


生ぬるい息が耳元にかかった。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。そんな俺にはお構い無しで、男の手がついにズボンのジッパーに掛かる。思わず目をぎゅっと強く瞑った。


「何やってるの、おじさん」


背後から甘い、それでいて少しだけ棘のある声が聞こえた。それと同時に離れて行く手と身体。支えるものが無くなり、力の抜けた身体はふらふらとその場に蹲りそうになる。


「おっと。大丈夫?もしかして、とは思ったけど、本当に古市くんだったとはね」
「夏目さん…」


崩れそうな俺の身体を支えてくれたのは夏目さんだった。少し困ったように笑うその表情に、見られてしまった羞恥心と、助けて貰った安堵がない交ぜになって襲ってくる。
ぼう、と呆けた俺は、とりあえず服直した方がいいよと言う夏目さんの声を聞くまでその場に突っ立っていた。いつの間にかどこかの駅に着いたらしい。人がわちゃわちゃと忙しそうに入れ替わる。


「どこまでされた?あのおじさん俺が話し掛けた途端ホームに走って行っちゃったけど、場合によっちゃ、駅員さん呼ぶよ?」
「だ、大丈夫です!ちょっと触られただけですから。その、色々される前に夏目さんが助けてくれたので…」
「あはは、古市くんだめだよー。そんな無防備じゃ」
「え?」
「俺も襲いたくなっちゃうじゃん」


いつの間にか端正な顔がぼやけるくらい近い位置にあった。慌てて後に下がろうとしたが、背後には扉。気付けば周りは再び人でごった返しになっていた。


「古市くん可愛いもん。しかも天然だし」
「えっ、ちょ…っ!」
「なにやってるんだアホロン毛」


目前にまで迫って来た顔が横に軽くぶっ飛んだ。突然の出来事に瞠目しながら声のした方に視線を向ける。そこにはせまい車内で器用に足蹴りを繰り出した神崎先輩と、頭を抱えた城山先輩がいた。


「神崎くん酷いよー。俺はただ、古市くんを守ろうとしただけなのに」
「さっきの奴の二の舞になりそうだったじゃねーかよ。てめぇも駅員に突き出すぞ。その方が世の中にとってもいいだろ」
「え、それって…」
「ホームに飛び出してきたさっきの痴漢を、神崎さんが取っ捕まえたんだ」
「まぁ適当に駅員に突き出して来たがな。あいつ常習犯らしいから、駅員も何も言わずに引っ張って行ったしな」
「…ありがとうございます」
「別にお前のためじゃねーよ。俺はああいうこそい奴が嫌いなだけだ」
「またまた神崎くん照れちゃってー」
「テメェいい加減沈めっぞコラ」


夏目さんをげしげし蹴りながら、さりげなく神崎先輩に腕を引かれる。そこは神崎先輩と城山先輩がいるため、隙間になった空間だった。囲むように先輩たちが立ってくれるお陰で周りの人から遮断される。もちろん、夏目さんからも。


「神崎さんは不器用なんだ」
「はい。分かってます」


背後に立つ城山先輩がそっと耳打ちをする。狭い電車内でじゃれ合っている二人を見てると、なにか温かい気持ちが胸に広がった。気恥ずかしさに顔が火照るのを止められないまま、城山先輩に小さくお辞儀をすれば、柔らかく微笑んで頭を撫でてくれた。



***



「はっ!?痴漢っ!?なんで俺を呼ばなかったんだよ!」
「呼べるかアホっ!てか声がでかいわばか男鹿っ!」
「お前の方がでかいぞ」
「うっせーよ役立たず」
「ぐっ…!でももうぜってーそんな目にはあわせないからな、安心しろ古市!」
「は…?」


翌日から、電車内で周囲から俺を守るように男鹿がぴったり張り付くようになった。とても周りの目が痛い。ある意味痴漢にあうより恥ずかしい日々を俺は送ることとなった。





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総受けのリクエストにお答え出来ているか激しく不安です…。
ROMI様、遅くなってしまってすいません><
リクエストありがとうございました!







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