※バレンタインネタ



「おい古市」
「な、なんですか」
「明日、2月14日は何の日か分かるか」
「ああ、バレンタイ…」
「そう!バレンタイン司祭が処刑された日だ!!」
「いや生々しすぎるっすよそれ!!」


放課後、授業が終わり帰ろうとした時に、ちょっと付き合えと半ば無理矢理神崎先輩に首根っこを引き刷られ、人気の無い教室に連れてこられた。
一体俺に何の用なんだ、と内心ビクビクしてたら、冒頭の台詞だ。訳が分からない。
しかしそこは智将古市、バレンタインデーから連想して神崎先輩の意図を図るなど容易い事だ。


「神崎先輩もしかしてだれか意中の人でも居るんですか!?花澤さん?それとも寧々さん?それとも大穴で姫川先輩とかっ!」


最後のは冗談で言ったつもりだった。この人は多少激昂した方が話が早く進むタイプだからだ。そう、あくまで冗談だったのに…。


「な、なんでテメェ俺が姫川と付き合ってること知ってんだよっ!?」
「……………へ?」


開いた口が塞がらない、とはこういう事を言うのだろう。
ぽかん、としてる俺とは裏腹に、神崎先輩は真っ赤になって口を開閉していた。何か言いたいみたいだが、うまい言葉が見つからないらしい。奇遇ですね、俺もです。まさか物凄い地雷を踏んでしまうとは…。


「と、とりあえず整理しましょう。神崎先輩は姫川先輩と(なぜかは知らないけど)付き合ってる。明日はバレンタインデー。そして今俺をここに呼び出した。つまりどういう事なんですか?」
「お前も俺と同じだろーが。だからこうしてお前を呼び出したんだ」
「え、ちょっ、一体どういう…」
「お前男鹿と付き合ってるんだろ」
「っ!!」


今度は俺が口を開閉する番だった。


「な、なんでそれを…」
「普段のお前ら見て気付かねーやつなんていねーだろ。ま、邦枝らへんは男鹿に盲目だから気付いてないだろうがな。あの金髪女がオガヨメ言われてるが、裏ではお前の事を“真のオガヨメ”ってみんな呼んでんぞ」
「うわああああ!!聞きたくなかった!!その情報聞きたくなかった!!」


明日から俺、どんな顔して学校行けばいいんだよ!


「ま、そういう事で、お前に折り入って相談がある。バレンタインチョコの作り方を教えてくれっ!」
「ええっ!ちょ、それって姫川先輩にですよね?」
「…あぁ」
「こう言ったら失礼ですけど、いくら付き合ってるとは言え、神崎先輩が姫川先輩に手作りチョコ上げるなんて想像出来ないんですけど…」
「バカヤロウ、誰が好き好んであんな野郎に女々しくチョコなんてあげるかっ!」


仮にも付き合って相手を「あんな野郎」呼ばわりとは、ある意味二人の関係は安泰なんだろうなと思う。


「じゃあどうして」
「…あいつの専属執事がよ、“非常に不本意だが竜也様は貴様からのチョコを所望していらっしゃる。もし竜也様の望みを踏みにじる様な真似をしたら、文字通り貴様の家を踏みにじってやろう”って言って来てよ。悔しいが姫川財閥の力は俺の家より上だし、何よりもあの執事、こっちの界隈でも有名なやり手だからな。何をしでかすかわかんねぇ」
「す、すげぇ。つーか怖ぇ…」


ある意味男鹿よりタチが悪いその執事を想像したら、一気に鳥肌が立った。目の前でこれ以上無いほど深い溜め息をついた先輩に同情する。


「分かりました。毎年妹のチョコ作りを手伝わされてるぐらいですけど、なんとかやってみます」
「お、おう!礼を言うぜ!」
「とりあえず食材買って俺の家行きましょう。幸い今日、家族夜まで帰って来ないので」


なんだか上手い具合に諭されちゃっている気がするが、俺も市販じゃなくてたまには男鹿に手作りチョコを渡そうと思っていたので、まぁいいかと思ってしまっていた。



***



「あ、先輩、チョコはレンジじゃなくて湯煎で溶かして下さい」
「お、おう」
「卵は殻を使って黄身と白身に分けて下さい」
「おう……ってうわっ!!」
「あー落ちちゃった。まぁ黄身はなんとかスプーンで取るので、大丈夫です」
「……おう」
「泡立て器を使ってメレンゲ作って下さい。ボウル逆さにしても落ちないくらいにしっかりと」
「おう……っておわっ!?」
「ちょ、大丈夫ですか?泡立て器回ったままでボウルから放したら、今みたいに遠心力で周りに飛び散るので気をつけて下さい」
「おう……」


神崎先輩は見た目通り料理はからきしらしい。俺たちはガトーショコラを作っていたが、その過程で何回もミスを犯していた。ただ、どれも地味で小さなミスだったので、なんとか型に入れてオーブンで焼くところまで持ってきた。
代わりにキッチンはココアパウダーやメレンゲやらで凄いあらさまだが、ミスするたびに申し訳ない具合にしゅんとなる先輩を見てると、怒る気も失せてしまう。不器用なりに頑張る姿は、なんと言うか母性本能を擽る。いや、俺男だけどさ。


「貴之殿」
「うぉあっ!!いきなり現れんな!!てかいつからそこに居たんだおっさん!!!」
「心外なっ!私の心は貴方と一つであると言うのに…」
「そういうのやめろマジでやめろ」


オーブンを覗いていた神崎先輩が怪訝そうに視線を向けてきた。おっさん…もといなぜか俺の家に住み着いてるアランドロンは、なにかと付きまとってくるから、一時期男鹿にさえも疑われたくらいだ。勘弁してほしい。


「てかお前、なに持ってんだ…?」
「これですか?これはヒルダ様から頼まれた、魔界味の素でございます。どんな料理にかけてもあら不思議、爆発的に美味しくなるのです!頑張ってる貴之のために、今回特別あのお菓子にひとふり…」


その時だった。ガトーショコラを焼いていたオーブンからドカン!と鈍い音が聞こえた。
まさか、これは…。


「入れたのっ!?入れたんだなお前っ!?なに余計な事しちゃってくれてんのっ!?本当に爆発しちゃったじゃねーかっ!!」
「まぁ私ったら…ポッ」
「赤くなってる場合じゃねええええええ!!!!!」


あり得ない、マジであり得ない。
いくら怒る気は無いとは言え、地味なミスを連発する神崎先輩のフォローしながら作るのはかなり大変だったのだ。それを最後の最後に、こんなおっさんにオチを持って行かれるだなんて…。


「ふ、古市大変だっ!!ガトーショコラが紫色になって噴火を繰り返してる!!!」
「どうしてそうなった!!」


神崎先輩が鍋掴みで慌てて持ってきた元ガトーショコラは、もはやお菓子の形状を成してなかった。色はチョコレート色からなぜか蛍光紫に変わり、中心部分が盛り上がって噴火を繰り返してる。どうしてたったひとふりでガトーショコラを活火山に変えられるんだ。


「しかも今の衝撃でオーブンが紫の液体だらけに…」
「うわああああ何でいつも俺ばっかりこんな目にいいいいい!!!」


もう人生に挫けそうだった。けどキッチンをこのままにして置くのはやばい。なんとか気力を降り絞って片付けを行う。全部綺麗になった時にはもう日が沈むところだった。
もう一度作るにしても材料も無いし時間も無い。残ったのは板チョコが数枚だけ…。


「神崎先輩、もうここは腹をくくって自分の身体にチョコ塗りたくってリボンを巻き付けて“俺がチョコレート変わりだ…”作戦しか無いですよ」
「古市、さっきから迷惑掛けてる事は重々承知だが落ち着け。そんなサバンナのど真ん中に無防備で寝っころがるような真似、俺には無理だ」
「でもじゃあ、どうしたらいいんですか…」
「…俺に考えがある」


この方法だけは使いたくは無かったがな、と前置きをして、神崎先輩は俺の耳元でその作戦を告げた。


「そんなんで上手く行くんですか?」
「任せろ。なんとかなる、たぶん」


果てしなく頼りない宣言を聞いても、結局成す術を持たない俺はその作戦に乗ることにした。



***



「お、男鹿。これ…」
「ん、何だこれ。でっけーチョコだな」
「男鹿それはな…コロッケチョコだ!」
「コロッケチョコォっ!?」
「そうだ、それはただのデカイチョコじゃない。お前の好きなゲンコツコロッケの型を取り、そこにチョコを流し込んだチョコだ!つまり100%コロッケに近付けたチョコなんだっ!!」


そう、作戦と言うのは相手の好きな食べ物にチョコレートを加えると言う物だった。神崎先輩はフランスパンにチョコレートを掛けて姫川先輩に渡すらしい。それはそれで美味しそうだけど、さすがにコロッケにチョコは合わないから、俺が出した結論はこのコロッケチョコだった。形だけがコロッケの、至ってただのチョコだ。
もちろんこんな子供騙しが通用するとは思っていなかったけど…。


「うおおおおサンキューな古市!!!マジうめーよこれ!!!」


なぜか男鹿は喜んだ。半端無く喜んだ。もうこっちが恥ずかしくなるくらいに。
不可抗力とは言え、かなり妥協してしまったチョコレートをそんなに喜ばれてしまうと申し訳ない気持ちになる。なにか他に、男鹿に喜んで貰えるものはないかと考えるが、あいにく他のお菓子も金も無い。
俺があげられるのは、もうあれしか…。


「…男鹿、こっち向け」
「なんだふるい…んっ」


だからそんなに喜んでくれたお礼に、俺からの初めてのキスを送ってやった。ただ触れるだけのキスなのに、噎せ変えるほど甘い香りがした。


「来年はもっと美味いやつ作ってやるからな」
「おう、楽しみにしてるぜ」


だからお返しだ、と今度は男鹿の唇が押し付けられた。ホワイトデーはあと一ヶ月後だと言うのに。甘い香りが強くなった。



***



「神崎先輩、そっちどうでしたか」
「なんかあの野郎、キモいくらいに喜んでやがった」
「そっちもですか…」
「執事の野郎も“竜也様が幸せで蓮井めも大変幸せでございまする”とか言ってて正直キモかった」
「その人、結局姫川先輩が喜べばなんでもいいんですね」
「古市」
「はい?」
「…世話になったな」
「いえ、その、こちらこそ…ありがとうございました」





(要するにあれだろ、結局愛なんだろ、爆発しろ!)





――――――――――




ギャグだから何やっても許されるよね!とか思ってしまいましたてへぺろ。

…ごめんなさい。

そんな私はバレンタインデーが学校の開校記念日で休みだった勝ち組です。HAHAHA!


霧神様、遅くなった上にあまりCP同士の絡みがなくてすいませんでした><
リクエストありがとうございました!








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