こねこみたいだの続きです。





紆余曲折を経て、男鹿家に小さな家族が増えた。
それもこれも、たかが猫一匹のために無茶をする幼なじみのためだ。なんだかんだ、俺はあいつに弱いんだな、と男鹿は小さくため息を着く。

仔猫は、美咲により身体を洗い、鈴の着いた首輪をつけさせられた。改めてみると、なにか特別な種なのだろうか。先程まで野良猫だった風貌はもうどこにもない。美咲は仔猫にシロと言う名前を付けた。昔から姉のネーミングセンスには期待していない。

シロの世話は、美咲と母が蝶よ花よの勢いで甲斐甲斐しくしていた。しかし、二人の手に抱かれていない間はいつも、シロはぴったりと男鹿にくっついてきた。時折すんすんと、男鹿の匂いを嗅いでいる。微塵も相手にされない父の泣き声は煩わしいので聞かない事にしておく。


「なんだお前、もしかして古市の匂い探してるのか?」
「にゃーん」


そうだ、と言わんばかりにシロは鳴いた。見た目の愛くるしさとは裏腹に、随分と肝が座っているらしい。デーモンやら悪魔やら呼ばれ恐れられている男鹿に対して、今まで怖がる素振りはしたことがなかった。


「……明日あいつ来るけど、あれはお前のじゃねぇーかんな」


覚えとけよ、と仔猫相手に本気のガンを飛ばす。相変わらずシロは知らん顔をして顔を洗っている。ギリ、と男鹿は奥歯を噛んだ。シロが家に来てから古市が来る頻度は増えたが、ほとんどシロに付きっきりなため、半ば蚊帳の外の扱いなのだ。休日である明日くらい、たまには独占したい。元々、あいつは俺が先に見付けたんだ。あいつは俺のものなんだ。



***



「シローっ!」
「にゃーんっ!」


しかし、そんな男鹿の意気込み虚しく、男鹿の家に来た古市は真っ先にシロに駆け寄った。シロもそれに飛び付いて応える。端から見ればなんとも微笑ましい光景である。ただし、彼らの背後で悪魔のような形相をした男が居なければの話だが。

男鹿のベッドを占領し、古市とシロはひたすらじゃれ合っている。古市が新しく買ってきた猫じゃらしのおもちゃで、きゃっきゃと遊んでいた。

男鹿は、表向き漫画を読んだ振りをして横目で古市たちを睨んでいた。シロがおもちゃに飛び付いた勢いで、古市がシロごとベッドに倒れ込む。そしてあろうことかシロはそのまま、古市の顔中をペロペロと舐め回した。


「あははっ、くすぐったいって」
「にゃあ」
「ちょ、シロやめろって!」


言葉とは裏腹に、古市の口調はまるで嫌がっているようには聞こえない。
男鹿はそれを見て、我慢の限界を悟った。音もなく傍に近寄り、シロの首根っこを掴む。


「にゃっ!?」


猫はここを掴まれるとどうにもならない。片手で容易く身体を持ち上げられたシロは、そのまま部屋の外に放り出された。ガチャン、と音をたててドアを閉める。ドアを挟んだ向こうで仔猫が抗議の声を上げているが、無視だ。これ以上お前に古市は渡さない。


「おい、男鹿。なにしてんだよ」
「うるせぇ。だいたい、お前もお前だ」
「うわぁっ!」


そう呟き、男鹿はベッドの上で上体を起こしかけた古市に抱き着く。再び古市は押し倒され、二人ぶんの体重を受けたスプリングがぎしりと嫌な音をたてた。

そのまま、有無を言わせず古市の唇に噛み付いた。それだけじゃない、シロが舐めた場所を消毒するかのように、顔中に唇を落とす。最後にもう一度桜色の唇を吸ってから、ようやく男鹿は顔を離した。


「男鹿……?」


少しとろんとした視線を向け古市は不思議そうに呟いた。どうした、と濡れた唇が言葉を紡ぐ。


「どうした、じゃねーだろ。お前のために、あの猫飼ってるのに、それなのにお前、俺に見向きもしないで…」


言葉は最後まで言えなかった。これではまるで、猫ごときに嫉妬をしてるようで、恥ずかしくなったからだ。
けれど古市はそんな男鹿を見てふわりと笑った。そして小さくごめん、と呟く。


「ごめんな、男鹿。俺すっげぇ嬉しかったよ。お前がシロを、助けてくれて」
「…………」
「だから今日は、シロじゃなくて、お前と一日遊びたいな…?」


そう呟いてから、今度は古市の方から唇を合わせて来た。細くて白い腕が首の後ろに回る。男鹿は素直に華奢な身体を抱き締め返し、答えの代わりに舌先でそっとその唇をなぞった。

未だに外では仔猫のにゃあにゃあと鳴く声と、ドアをがりがり引っ掻く音が聞こえる。
男鹿は小さく微笑み、再度古市に口付けた。


それからしばらくの間、男鹿家では男鹿とシロが古市を取り合う光景が頻繁に目撃されたらしい。





――――――――――



なぜか続いたこねこシリーズでした。

男鹿がただの焼きもちさんになりました(汗)
人間じゃなくて動物との三角関係は書いてて楽しかったです。
あと、シロの性別は皆さんにお任せします。

さのか様、遅くなってしまい申し訳ありません><
リクエストありがとうございました!






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