薄暗い牢獄に入れられて早一週間。

投獄されている身なのだから動くことは出来ないが、一つだけ変わったことがあった。


「ヘカドスお前、髭似合わねーな」
「うるさい、黙れ」


投獄されて一日も経たない内に無精髭が生えてきた俺と違い、元々体毛が薄いらしいヘカドスは、一週間たってようやくその口周りにうっすらとした髭が生えてきていた。
どこか冷たい、鋭い切れ目と、割りと整ったシャープな顔立ちのこいつには、どうしても不釣り合いに見える。


「つっても、髭そりなんてないからどうしようもないけどな」
「そんなことより一刻も早くここから出てあの契約者を…」
「気持ちは分かるが、自分の立場ってもんも考えろよ」


思わず、溜め息をつく。
二人一緒に投獄されてから、ヘカドスは末子殿の契約者にご執心だった。そりゃまぁ、あいつを消すのが任務ではあったが、今は身動きの取れる状況ではない。ましてやそれ以前に、任務に失敗した俺たちに下される制裁も未だ決まっていないのだ。
それでも気が急ぐヘカドスに、焔王様への忠誠の深さを感じる。

しかし最近、その忠誠心とは違う思いがこいつを突き動かしてる気がするのは、俺の気のせいだろうか。


「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ」
「お前ほんっと昔っから変わらねぇな。俺がその度どんだけ陰でフォローしてたか知ってるのか」
「貴様に頼んだ覚えはない」


かっわいくねぇやつ!

でもそんなこと腐るほど思ってきたのに、どうしてもこいつをほっとけない自分が一番むかつく。
一体なんなんだチキショウ。


「……でも、まぁ、」
「あん?」
「助かってはいた」


告げられた言葉の意味を直ぐには理解出来ず、固まってしまった。


「だから柱師団に入った時もお前と同じ班だった時はどこか安心した。お前は俺とナーガと違ってバックアップが上手いからな」
「お、おう…」
「けどあの契約者を消せなかったのは俺のミスだ。だから俺が片を付ける」


つまり俺にはもう迷惑を掛けないからほっといてくれって事か?

……そんなの、


「ふざけんじゃねぇ」
「……グラフェル?」
「何年お前のこと見て来たと思ってんだ。今更、お前一人で突っ走ったってどうにもなんねぇよ。ましてや相手が末子殿の契約者ならなおさら」
「そんな事はない。あの契約者自身は対したことはなかった。だから次こそは必ず…」


口を開けば「契約者、契約者」ばかり。
そんなこいつに無性に苛立ちを覚えて、その口を塞ごうとした俺は、


「んんっ」


思わずヘカドスに、キスをしていた。

ざらついた感触はたぶん俺とヘカドスの髭だろう。
口を塞ぐための唇を合わせただけのキスは、あわや歯と歯がぶつかる勢いで、ムードなんてへったくれもないのだが。

俺はどうしてか酷く、この触れるだけのキスに酔っていた。


「ちょ、グラフェ……っん!?」


俺の突然の行動に、さすがのヘカドスも困惑したのだろう。ろくに抵抗もせず、目を見開いたまま俺にされるがままになっていた。

それを良いことに、今度は身体をぐっと寄せて、ヘカドスの後頭部と腰に腕を回したまま、また口付けた。


なるほど、全部分かった。
俺がこいつを見放せないのも、こいつがあの契約者の話をする度に無性に腹が立つのも。

全部、お前のせいだヘカドス。
お前がそうやって強がるから、どうしようもなくなっちまうんじゃねぇか。

どんどん、手放せなくなっちまうじゃねぇか。


「グラフェル、お前…」
「ここ出たら髭剃って、そんでもってあの契約者今度こそぶっ倒しに行くぞ。もちろん、俺とナーガも一緒にだ」


有無を言わせない口調でそう言えば、ヘカドスはもう反論の余地が無いのか、そっぽを向いてしまう。


「……勝手にしろ」


素っ気ない言葉とは裏腹に、その横顔に浮かぶ朱を俺ははっきり見てしまっているのであって。
とりあえずは任務を果たしてから、ゆっくりと伝えよう。

俺もお前も、存外ピュアな心を持っているって事を。









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メタモルフォーぜのれん姉にお誕生祝いとして送り付けさせて頂きます!
ひたすら原作でヘカドス見てグラヘカ書いてる内に、ヘカドスの受けとしてのポテンシャルの高さに驚愕しました。
ちょ、私までグラヘカに目覚めたらどうするのよ(笑)
とりあえずバカップル度はMAX(当社比)でお送りしました。
れん姉お誕生日おめでとう!これからもずっとずっと大好きです^^








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