それからしばらくは適当にその辺ぶらついて、流行りのCDを見に行ったりショッピングモールでおもしろい商品をつつきながら二人で馬鹿みたいに笑い合ってた。
男鹿とは違う顔、違う声、違う安らぎ。
心のどこかでまだ罪悪感を抱えてた俺にとって、島崎の笑顔はそれを軽くしてくれた。


「こんな時間まで付き合わせちまって悪かったな」
「いいよ別に。古市と一緒に居るの楽しいからさ」


お世辞でもないこの直球の言葉に、なんとなく恥ずかしくなって俯けば、大きな手の平が髪をわしゃわしゃと乱した。島崎はかなりの長身だからそんなことをされると子供扱いされてるみたいでむっとするが、それを超える暖かさが心地よかった。島崎の彼女になった人は本当に幸せなんだろうな、そんな場違いな思いまで浮かんでしまう。
そんな俺の表情の変化を読み取ってか、改まった口調で島崎は呟く。


「なぁ、男鹿と仲直りする気はないのか?」
「…無理だよ」


今まで星の数ほど男鹿と喧嘩をしてきたけど、今回ばっかりはそう簡単には行かない。友人と恋人、二つの繋がりに大きな溝が出来てしまった。それも、その溝を更に深くしてしまったのは俺自身だ。簡単に謝ることも、たぶん許してもらうことも出来ないだろう。


「じゃあさ、俺と付き合わない?」
「は?」


どこをどうしたらそんな話になるんだ。昔っから島崎は天然ぽいところがあったが、これは少々重症じゃないだろうか。


「だって古市、男鹿と付き合ってたんだろ」
「な、なんでそれを…」
「分かるに決まってんだろ。俺もお前のこと好きなんだから」


声が出ないとはこういう事を言うんだろうか。
島崎のカミングアウトに完全にフリーズした俺の脳内は、間近に迫ってくる島崎の顔をすぐに認識出来なかった。
気が付いた時にはもう吐息が触れ合う距離で、抵抗の間さえ与えられなかった俺はただ、無意識に心の中で男鹿に謝った。


「人のモンに手出すんじゃねーよ」


その時、心中の人物の声がいきなり聞こえて思わず顔を上げた。島崎の肩越しに見えるのは「オリゴ糖」のTシャツを着た紛れもなく男鹿の姿で、その三白眼は鋭く俺の目の前の島崎を射抜いていた。
なんだこのラブコメ展開。


「あれ、思ったより早かったな男鹿」
「よく言うぜ。とっくに俺の存在分かってたんだろ」
「こっちにガンガン視線寄越してるくせに、いつまでも俺たちの後ろをうじうじ引っ付くだけの輩には気付いてたけどね」
「お前ほんといい性格してんな」
「アバレオーガに言われたら身も蓋もないな」


二人の毒舌合戦に俺は終始口を開けたままだった。今までこの二人がこんなに喋ってる姿を見なかったこともあるが、なにより二人の間に飛び散る火花が恐ろしい。男鹿の目付きもそうだが、島崎の黒い笑顔も怖い。そしてそんな悪魔二人の間に立たされてる俺明らかに死亡フラグ。


「あぁ分かった分かった今回は降参だよ。弱味に漬け込んだってのは認めるし、まだ古市も俺のこと友達としか思ってないみたいだし」


島崎は両手を軽く上に上げたままそう言い、その手で俺の肩を掴みながら呟いた。


「男鹿に泣かされたらまたおいで。いくらでも慰めてあげるから」


甘い吐息を耳に吹き込まれて思わずぞくっと背中が粟立った。爽やか好青年の顔は今やもう立派な色気を含んだ男の表情そのもので、俺はその場に固まってしまう。


「島崎!」
「ははは、悪いねー。今日のところはこれくらいで退散するよ」


去っていく島崎の後ろ姿をまだぼーっと惚けた頭で見送っていたら、急に強い力で手首を握られた。顔を向けた先には不機嫌MAXの男鹿の顔で、俺を一瞥してから「帰るぞ」と呟きそのまま腕をひかれる。
男鹿より少し身長の低い俺は、大股でずんずん前を歩く男鹿に足をもつれさせながらもなんとか付いて行く。


「あんなやつに簡単に漬け込まれるんじゃねーよアホ古市」
「…ごめん」


何度となく心の中で復唱した言葉は、意外にもあっさりと言えた。これも一重に島崎のお陰かもしれない。そんなこととても口には出せないけど。
返事の代わりに俺の手を掴む男鹿の力が少しだけ、強くなった。




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朝霧様たいへんお待たせ致しました(汗)
勝手にオリキャラ出しちゃってすいません…
とっても楽しく書かせて頂きました^^
リクエスト本当に有難うございました!これからもどうかよろしくお願い致します。






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