「おがはずるい、」


舌ったらずの拗ねた声が生温く火照った室内に反響した。
古市はそう呟いたきりぷいっとそっぽを向いてしまう。
最も、仰向いていた顔を横向けただけだから、正面からその銀髪の前髪を撫でていた俺にとっちゃ意味はさほどないわけなのだが。

その真っ白い頬に朱が走った。
それは数十分前までの欲情で濡れたそれとはまた違う、単に羞恥心からくるもので。
閉じられて湿った睫毛がフルフルと震える。
きっと自分で言った言葉から余計な事をぐるぐる考えているんだろう。
それでありもしない非難をされるのはめんどくさいこと極まりないが、これが古市なりの照れ隠しと分かってからは、甘んじて小さな八つ当たりを受けようとしてる自分がいる。
なんて、お前は微塵も気付いてないだろうがな。

はいはい俺が悪かったよ、と艶やかな髪をすいてやれば、赤くなった耳朶が姿を表す。
それに気を良くして頭を撫でてやれば臨界点を突破したのか、両手で顔を覆ってしまって完全に表情が伺えなくなってしまった。
その指の隙間から「おがはずるい」だの、「こんなのぜったいおかしいぞバカヤロウ」だの減らず口がだだ漏れしているんだが。


「悪かったって。ほら、顔見せろよ」


赤く染まる耳元に唇を寄せ、とびっきり優しい声色で呟けば、しぶしぶといった感じに指が開いていく。
涙の溜まる目尻を親指で拭ってやると、更に泣きそうな顔で見詰められるからいよいよ訳が分からなくなる。
眠気と気だるさと羞恥を兼ね備えた古市は、なかなかに面倒だ。


「ずるいんだよ、おがは。だって、…あんなに優しくされて、こんなふうに触れられたらおれもう…おれもうおまえのこときらいになんてなれない、っ」


「おればっかりこんなに、おがが好きだなんて、不公平だ…ッ」


前言撤回。
面倒だなんてとんでもない。
いやそれ以上に遥かに性質が悪い。
ここまでくると可愛いを越えてもはや魔性だ。
あやうく収まったばかりの欲が大復活しかけた。
これ以上古市の身体に負担を掛ければ、絶交されかねない。
理性を総動員させてその性悪な感情をなんとか捩じ伏せた。
これは賞賛ものだ、偉いぞ、俺。


そんな俺の葛藤などしらないこいつは、固まった俺の反応をまたおかしな方向へと受け取ったのだろう。
不安げに首をすぼめてすまなそうに項垂れている。
時折こちらを気遣うようにちらちらと向けられる視線が、その、上目遣いだから今の俺にとってはかなり目の毒なのだが(普段ならそんなことされたら真っ先に情事に雪崩れ込んでいる)

邪な感情を小さなため息を吐くことによってなんとか追い出した。
そしてどうすればこのひねくれモードの古市に、誤解なく俺の気持ちが伝わるか考え込む。
が、結果として数秒もたたずに結論が出た。
第一俺が考え込むだなんて、それこそらしくなさすぎるだろ気持ち悪い。


「お前こそ、嫌だっつっても離さねーからな」


覚悟しろよ、と啄むようにそのまま口付ければ、ぐずぐず顔が餓鬼みたいにくしゃっと弛んだ。
めんどくさいが、たまにはこんなのも悪くないかもしれない。




――――――――――



イチャイチャバカップルの基準が分かりません…
分かったのは私にラブラブやら甘々は書けないと言う事だけでした。誠に痛恨なり。
あやめ様遅くなってしまってすいません、こんなのでよろしければ(管理人を)煮るなり焼くなり踏みつけるなり好きにしてください。
いやほんとにすいません(真顔)






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