二人きりの教室には、目が眩みそうになるほどの西陽が差し込んでいた
向かい合わせに並べられた二つの机
目の前の仏頂面を拝みながら、俺は手元の悲惨な点数のテストに重い溜め息をついた


「男鹿、なんだこの点数は。あれだけ補習受けただろ」
「んなの一晩寝たら忘れるっつーの」


しれっと答える男鹿に落胆する
もう何度目になるかも分からない俺と男鹿の二人きりの補習
何かと問題の多い生徒だが、このクラスの担任を受け持った以上、留年などさせる訳にはいかない
しかも危ないのは自分が教えている数学だけだ
他の強化はギリギリと言えど、なんとかノルマはクリアしている
ただ一つ、数学だけ成績が伸び悩んでいた


「お前次回もこの調子だったら本当に進級危ないぞ」
「別にいいっての。大学行く気もねーし、進級できなかったら就職すっから」


そう言う問題じゃないだろ、と心の中で突っ込みを入れた


「とにかく俺はこのクラスを持った時から絶対全員卒業させるって決めてたんだ。お前だって例外じゃない」
「それは先生の意思であって俺の意思じゃねーだろ。新任だからって焦り過ぎなんだよ」


いやお前が焦らせてるんだけどな、とは言えなかった
やる気のない男鹿に有無を言わせずシャーペンを持たせる
机の上に広げたプリントは、男鹿が苦手とする問題を徹底的に集めたものだった


「とりあえずこのプリントが七割以上出来れば問題ない。さぁやるぞ、男鹿」
「えー」
「えー、じゃない」
「……じゃあさ、このプリント七割以上出来たら何でも言うこと聞いてくれる?」
「……は?」
「いいだろ、ご褒美だご褒美。人間餌がないとやってらんない時もあるだろ」


またこいつは何を言い出すんだか
だけど急に輝き出した男鹿の瞳を見て、仕方なく首を縦に振った
俺の解説なしで七割以上なんて取れる訳もないだろうし、何より男鹿のやる気を出す為だし別にいいかと思った
絶対だかんな、と釘を刺してから黙々とプリントに取り掛かる男鹿
俺は正直、あまり期待しないでその様子を見守っていた










「嘘……だろ?」


採点し終えたプリントを見て愕然とする
点数はなんと96点
ほぼノーミスだった
唖然としている俺とは対照的に、男鹿はご満悦の様子だった


「よし先生、約束だ」
「ま、待てよ!嘘だろこんなの。期末テストがあんな点数だったのに、こんな取れるはずねーだろ!」
「んなの、あんだけみっちり教えられたら馬鹿でも分かるっての」
「はッ!?それどーいう事だ……んッ!?」


突然、唇に柔らかい感触を感じた
そして至近距離にある男鹿の顔に、混乱していた思考がますます混乱する
なんでこいつ、俺にキスしてんの…?


「先生も大概鈍いよな」
「はッ!?てか放せよっ」
「やだ。何でも言うこと聞いてくれるって言っただろ?」
「それとこれとは話がちが…」
「違わねーよ。いいから大人しくしてろ」


最近視力が落ちはじめて掛けていた眼鏡を易々と外され、教卓の上に置かれる
本気で身の危険を感じて逃げ出そうと試みるが、男鹿の力強い腕によって逆に机の上に組み敷かれてしまった
すかさずのし掛かってくる男鹿の重みを感じ、自分がいまどんなに恥ずかしい状況に立たされているのか思い知らされる
火照る顔を見られたくなくてせめてもの抵抗にと顔を横に背けた
縫い付けられてる両手首が男鹿の握力でギリギリと鳴っている


「おが……ッ」
「特別授業、教えてくれるよな古市先生?」


高校生とは思えない色気を放つ男鹿を見て、思わず全身がゾクリと粟立つ
有無を言わせず侵入してきた男鹿の舌に、全てを呑み込まれてしまいそうだった




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