頭では分かってるつもりだった

中三の、俺のせいで危うく古市の第一志望が取り消されそうになったあの時、今までどんないざこざもなんとかなっていたけどこればっかりはどうしようもなくて
気が付いたら床に膝を付いて頭を下げていた
でも不思議と悔しさとか怒りだとかは微塵も沸かなくて、それより俺はこいつと一緒に居てはいけないんじゃないかという現実を今更ながらに痛感して、胃の奥が鈍く痛んだ

あんなその場凌ぎの土下座も意外に効力があったらしく、現に古市はいま小綺麗な制服を着ている
それでも変わらず隣を歩く事は昔と少しも変わっておらず、俺はいつしかまたこの現実に甘えていた






「そいつに触んな」


柄にもなく焦った
たぶん顔には出てないが、身体の中は焦りや怒りによって内側から爆発しそうだ
相手がナイフを持っていた事実もそうだったが、何より俺はこいつと一緒に居てはいけない、その事実を思い出したからだった
古市を羽交い締めにしていた男は数秒で地面に沈められるが、所詮俺に出来るのはそこまでだ
他の俗に言う社会的権力に対して奮う拳なんて、どんなに強くても歯がたたない

じゃああの時の出来事を繰り返すのか
俺がこいつと一緒にいる限りいずれ必ずあの時のような、俺一人じゃどうしようもない事態に陥るのが目に見えている
それで古市が悲しむことがあるのなら、今まで甘えて来た自分に区切りをつけなきゃいけない
そう思って俺はもうあそこの高校へ通う足を止めた

それなのに、




「男鹿」


あいつは自ら俺の前に現れた
しかも二回も
一度目は思わず出てしまった本音を聞いて挑戦的に言い放ったまま帰って行ったが、それから一ヶ月後、古市は学年末校内一位の称号を手土産に再び俺の前に現れた
こいつが頭いい事は知っていたが、その紙が示す意味を俺は呑み込めずにいた
だけどそれは俺の敵わなかった部分を補ってくれるものだと言うことを理解して驚く
俺じゃ守りきれない相手でも、違うやり方でこいつは護ろうとしてくれたんだ

弱いくせに態度はでかくてわがままなこいつは、またもや俺に挑戦的に言い放ったまま踵を返した
上等じゃねーか
せっかくこっちから放れていったのにお前はそれを引き留めたんだ
責任は取ってもらうからな
もういくら嫌だっつっても放れてやんねーよ

今まで柄にもなくぐちぐち考え込んでいた自分が馬鹿らしくなって、人目も気にせず大声で笑った
さすが俺とつるんでいただけはある
やっぱりお前は最高だよ

そしてその足は一ヶ月と同じ方向へ再び歩み出した





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