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※バブ66後捏造



三月の終わりも近いと言うのに季節外れの雪が町中を覆った
あの日も確か、こんな冷たい雪が降っていた

あれからまだ数週間しか経っていないはずなのに、一刻に沈みきった気持ちは晴れない
空に広がる曇天のように、俺の心は厚い灰色で満たされていた
でもきっと、それは俺だけじゃなくて隣にいるこいつも、呑気なふりをしながら同じなんだ
そしてたぶん、今から俺たちの手の届かない所へ旅立つあいつも


見送りに行こう、と切り出したのは意外にも男鹿からだった
そわそわしながらも口に出す勇気がなかった俺は、その言葉にこくりと頷いた
そしてなぜか家を出て向かった先は、あの廃れた工場
全てが始まったと言われても過言じゃないその場所は、何も変わらずにただ悠然と有るべき場所に佇んでいる
真っ直ぐに中へ入って行く男鹿に何も言わず付いて行く
降り積もる雪の中に紛れた、歩幅の狭い足跡を横目に


瓦礫や硝子が散らばる中、無造作に落ちている菓子パンのゴミや折れた割り箸がとても大切な物に感じた
変わっていない、なにひとつだって
俺ら以外何も変わったものは無いんだ
そしてあいつもきっとそう思いながら、踵を返して一人寂しく雪を踏み鳴らしながら帰って行ったんだ

「行っちゃった、んだな」
「……あぁ」

どうして今そんな悲しい顔するんだよ
卑怯じゃねーか
あいつの前は虚勢張って、俺の前じゃ本当の気持ちを出すのかよ
そんなの見せられたら俺だって、


頭では分かったつもりだった
けど根っこの部分にある本当の気持ちがここに居ない相手に焦がれてやまない
男鹿のあの行動は正しいと断言は出来ないかもしれない
結果的にそれぞれの心は鈍く濁った
その濁りはきっと、寂しさだ
けどあいつの居ない寂しさと同じくらいに、あいつを大切に思っているのも事実で
そしてあいつが大切なのと同じくらい、この不器用で優しい不良も大切なんだ

周りがどう思っても俺は男鹿を信じてる
三木が居なくなるのは本当に嫌だったけど、それ以上に三木が目の届かない所で傷付けられる方がもっと嫌だ
それを防いだ男鹿の心は、拳よりも強いのかもしれない
自分の本音に背いてまで、不条理を受け入れる事なんて俺にはとても出来ないから
でもだからこそ俺は男鹿に、よくやったも馬鹿野郎も、言えないんだ
頑張ってる男鹿の心に俺が土足で踏み入れる訳にはいかないから
でも、それでもあの足跡を見てると耐えられないんだ

「俺、三木が居なくなるの本当に嫌だ」
「……あぁ」
「でも、それ以上に三木が傷付けられるのは嫌だ…ッ」
「……………」
「だけどっ、三木を大切なのと同じくらい、お前も大切なんだ…ッ!」

何も出来ない自分が惨めで悔しかった
二人はずっと苦しんでいるのに優しい言葉も、手を差し出す事も出来ない自分が嫌で嫌で仕方がなかったんだ
二人が大切だからこそ、男鹿の悲しくて優しい決断を、三木の苦しくてやりきれない気持ちを、裏切る真似なんて出来なかったから

「ごめん、ごめんな…ッ……」

寒かったはずの顔が火照って音もなく涙が流れ落ちた
俺が泣いていい資格なんてないのに、止めようと顔を覆っても、一向に止まってはくれない
つらくて苦しくて悔しくて惨めでやりきれなくて、大切な二人の心境を思うだけで溢れてくるんだ

「いいから、」

ふわり、と暖かい男鹿の腕に引き寄せられた
目の前に広がった真っ黒な学ランに鼻先を当てれば、痛いくらいに身体を引き寄せられた

「お前はそれでいいから」

視界も感覚も全部男鹿で満たされている中で、どうしてか男鹿が静かに泣いてるような気がした





降り積もる雪の上に刻まれている歩幅の狭い足跡
先を行くそれに、俺たちは躊躇いながらも足を踏み出す
いつか遠くない未来に、全てが解決してまたみんなで笑い合える日を信じて

足跡はやがて、一人から三人へ





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