昔の夢を見た。

安物の腕時計をメリケンサック代わりにしながら、目付きが気に食わないと絡んできた奴等を動かなくなるまで殴り続けていた。

泣きながら助けを乞うその姿が滑稽で、殴るのをやめない俺を見る何かイカれた者を見るような目が癪に障って、俺はずっと拳を振るっていた。
拳が赤に染まりきりそうになってきた頃、誰かが通報でもしたのかパトカーのサイレンが聞こえてきた。それでも俺は、殴り続けていた。相手の鼻が折れたのを感じた。

そこで、目が覚めた。
やけにリアルな夢で、目覚めた後も奴等を殴った感触がまだ手に残っていた。


気持ち悪ィ。


そう、思った。

部屋を出て冷たい廊下を二歩歩いた先にある兄貴の部屋のドアを開けると、待っていたと言わんばかりの表情を浮かべた兄貴が自分の喉元を押さえながらベッドに座っていた。
いつもの首を絞められる夢か。
一歩踏み出すと兄貴は手を下ろした。

手を振り上げても、一言も洩らさなかった。兄貴は夢の中の奴等とは違い筋肉がついていないからか柔らかかった。両親が旅行に出掛けてくれたのはラッキーだ、こんなに派手な音をたてていたら見に来ていたかもしれない。
拳をやめ平手にしたのはせめてもの弟心だ。
兄貴の頬が真っ赤に染まり俺の手に痺れが来はじめた頃、漸く手を止めた。息を荒げた俺と無言で涙を流す兄貴の視線が交差する。


痛くねェのかよォ。


そう問いかけると兄貴は困ったように目を伏せた。痛いならそう言えばいいのに、と殴る度にそう思う。案外俺達は似た者なのかもしれない。
殴っているうちに床に倒れてしまった兄貴を抱え起こすと、その軽さに少し驚いた。昔から軽かったが、なんだ今の軽さは。心なしかやつれたように見えるその顔を思わず凝視した。


なに?


というように見上げてくる兄貴を無視しながら、その夜俺は兄貴を殴って兄貴を抱いて寝た。さすがに実の兄貴を犯す程飢えてもいなかったから普通に抱き枕代わりに。しかし控えめながらも俺の服を握り締めてきたその仕草にうっかり可愛いかもしれないと思った自分が信じられなかった。


110215

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