「夏、欲しいものある?」
「……?」
「バレンタイン、そろそろでしょ」

三の部屋のベッドの上、専用のクッションを抱き締め壁に背を預けていた夏は机に向かっていたはずの恋人に首を傾げて見せた。
小学生の頃から使っているのだというほとんど傷のない学習机に肘をつき、手の甲に頬を乗せるようにした体勢で夏を見つめた三はもう一度同じ問いを投げ掛けた。今度はその意図をしっかりと捉えたらしい夏は抱いていたクッションに顎を埋めて細く小さく唸る、もともと物欲が薄いせいか問われてすぐに欲しい物が浮かんでこないのだ。
能面のような無表情の中に困ったと訴えかける色を滲ませうんうんと悩み続けている恋人の姿に小さく口元へ弧を描いた三はゆっくりと立ち上がり夏の座るベッドの端へと腰を下ろした。さすがに二人で寝るには些か狭いベッドも座るとなるとゆったりとしていて軽くスプリングを軋ませながらも夏と三、二人分の体重を確かに支えていた。
三が座った事により僅かに傾いたベッドを気にする風もなく、クッションに顎を埋めたまま夏は三ににじり寄った。

「決まった?」
「……布団」
「……布団?」

予想外の言葉だったのだろう色濃いクマを残した半目を珍しく丸くした三は確認を取るように夏の顔を覗き込んだ。しかし言い間違いや冗談でもないらしく夏の唇が再び開く事はなくただまっすぐに三の瞳を見つめ返していた。

「どうして布団なんだい?」
「三、のベッドで、寝る時…布団、一つだから、寒い」
「あぁなるほど…」

たどたどしい言葉遣いながらに告げられたその理由に納得した様子を見せた三だったが、すぐにその首は左右に振られた。
どうして?と言わんばかりに首を傾げる夏の真っ黒い髪の毛をサラサラと数回撫でた後、いいかい、と前置きをしてから幼子に言い聞かせるようなゆっくりとした調子で三は言葉を吐き出した。

「いいかい、寒いなら僕にくっつけばいい話じゃないか。狭いベッドなんだ、すぐに暖かくなるさ」
「……あ」

盲点だった、と大きな瞬きを繰り返す夏は本当にその提案が思い浮かばなかったらしく、今度は三の肩に頭を乗せまたうんうんと悩み始めた。
欲しいもの、欲しいもの、とまるで呪文のように繰り返すその頭をちらりと一瞥した後、三もまた何を渡せばこの無口で無表情で喋り下手でどこまでも無垢な恋人を喜ばせる事が出来るのだろうと意識をプレゼントへと集中させた。


110212

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