始業式まで一週間をきったその日、俺と三は電車に揺られていた。
がたんごとん。
定期的なリズムで体が揺れてなんだか面白い気分になる。向かいの席に誰も座っていないせいで流れる景色が良く見える…というか何故か電車には俺と三しか乗っていなかった。そんなにローカルな電車なんだろうか?

朝目を覚ますともう起きていた三にいきなり、

「海に行こうか」

なんて言われてしまい、まだ夢うつつだった俺は良く理解する間もなく頷いていた。目と頭が完璧に覚醒したのは三の手が俺の前髪をとかしている最中だった。

それから、今に至る。

「ねえ、三…どこまで、行く、の?」
「さてね」
「……ふぅ、ん」

返答になっていない。

俺もまともな返答をする方ではないけれど、今日の三はそれと同じくらいまともじゃない。
がたんごとん。
音に合わせて体が揺れる。ゆっくりと外の景色が流れていく。そうそう電車で遠乗りする機会なんてないから、まぁ良いかななんて思う。

「夏、こっち見てごらん」
「…ん…?」
「海」

コツコツと指で叩かれた窓の外を見ればキラキラと光る青い海が広がった。大きい。
どうやら次が終着駅らしい。
軋むような音をたてて車体が止まった。三が立ち上がる。それに倣うようにして俺も電車をおりるけど、やっぱり知らない場所だった。ここ、どこ?

「こっちだよ夏」
「待っ、て」

三は良く来るんだろうか。迷う様子なく足を踏み出していた。慌てて追い掛ける。
三について行く事に必死で、気が付いたらもう潮の香りが漂う岩場だった。寄せては返す波の音がどこか気持ち良い。でも、まだ4月になったばかりで少し寒い。

「う、み…」
「本当は学校の時にしたかったけど」
「…なら、7月が、いい」
「そうだね、夏の季節に」

乾いている岩場に腰をおろす。やっぱり潮の香りがする。ヒトデがくっついてた。モロに田舎の小さな浜辺、なんだけど、丁度良い。隣に座った三に凭れてやった。
何をするでも、話すでもなくただ波の音だけが俺と三の間に流れる。二人だけの空間、日常から切り離された空間、静か、とは言えないけれど確かに静かなこの場所は心地好くて目を閉じた。



まるで逃避行みたいだね、と、頭の軽い先輩から笑われるのは数時間後。



110414

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -