梅雨は嫌いだと夏が言ったから。

梅雨入りの発表がされてから目に見えて夏の調子が悪くなった。と、三は机についた肘に顎を乗せながらぼんやりと考える。
隣の席の夏は机に突っ伏したままぴくりともしなかった。放課後だからいいものの、授業中ならばすぐにでも教師の叱責が飛んでくるだろう。
ただ見ているのに飽きたのか、三はいきなり立ち上がり夏へと近付けば手を伸ばす。ゆっくりとしたその手は黒髪の中へと潜り込み、絡めとりながら進む。僅かに身動ぎした。

「……、な、に…?」
「生き返らせてあげようと思って」

手を滑らせながら答える三に、眉を寄せながらのろりとした動作で身を起こした。頭痛がする、と呟きながら頭を振り、窓の外を見た。

「…雨…」
「うん、雨だよ。頭痛いの?」
「痛い…」

くしゃりと、泣きそうに顔をしかめて訴える。珍しいその表情に数度目を瞬かせた三は、小さく笑った。
ゆるゆると伸ばされる手を見れば更に近付いて腰に回しやすいようにする。
なんの疑問も持たない様子で腰に抱き付けば、甘えるようにして頭を擦り寄せた。

「頭、いた、い」
「うん」
「痛い、よ」
「うん」

呟き続ける夏を撫でながら目を細める。誰もいない教室は静かで、暗い。見回りの教師も回ってこないので、実質二人きりだ。

「み、つ、」
「うん」
「…寒い、よ、」
「うん」
「…お腹、すい、た、」
「うん」
「…帰、る?」
「うん」

顔をあげた夏を覗き込み、微笑む。
ゆらゆらと揺れる瞳を見つつ首を傾げる。唇を触れるギリギリまで近づけながら、その様子を観察すれば腰に回ったままだった手を解いた。

「帰ろうか、夏」

行くよ、
手を引いて、教室を後にした。


110411

きがはやいつゆ

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