「ねー四方、だっこして」


いつもちるの提案は突然なものであり、それは今回とて例外ではなかった。そしてそれを拒否する権利など勿論四方にある訳もなく、大人しく膝の上に乗せるしかなかった。胡座をかいている四方の足の上にちるが座り、のん気にあくびまでしている。今日も今日とて外出している月神一家、家の中には四方とちる、それから下働きの三人しかいないのだが下働きは台所にこもりきりなので実質二人きりのようなものだった。四方の胸板に背中を預けてふにゃふにゃと笑うちるは思春期真っ只中とは思えないほどに幼かった。わざとらしいくらい大きく深いため息をついた四方は諦めたようにちるの腹部へと手を回し前の方で手を組み、顎を茶色い髪の毛の上に乗せた。次期組長とその幹部とは思えない構図だ。幸い今は誰もいないし、いたとしても突っ込んでくれるような人物がいるとは到底思えない。ちるを膝の上に乗せたままで四方は何度目かのため息をついた。


「ため息つくと幸せ逃げるよー」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「ちるさん」
「……」


悪びれた様子のないその返事に思わず四方の肩が落ちる。ふわふわとした髪の中に頬を埋めるような体勢になるも両者とも気にした様子はなかった。


「…で、今日はどうしたんですか」
「ひーちゃんとかふーちゃんがきーちクンにこうやってしてもらってるの見て、羨ましいなぁと」
「壱坊にして頂いたらどうです」
「今ご機嫌斜めだからやだぁ」
「…お嬢、何したんですか」
「…思い当たる事が多すぎて…」


110223


補足
四方=月神組幹部ちるのお目付け役

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