成長話



たくさんの事があった高校生の時代も数年前にサヨナラして、とうとう私は26歳にして実家を継いだ。右には妹が、左には高校からの友人が、そして目の前には幹部という名前に変わったお目付け役が揃っていた。

デザイナーという夢が捨てきれなかった訳ではない。けれど、ここ一帯の自治をうちが治めていたのだと知ってから家業を継ぐというのがただの重荷、苦痛ではなくなっていた。継ぐ事によって私の大切な人達の生活やその他を手助け出来るのなら、組長にでもなんでもなろう。


「おいちる…いや、組長。一のご兄弟がお越しになってますゥ」

「お通しして」

「はァい」


是の言葉をかけるとすぐに広岡と篠宮が障子を開いた。開け放たれたその廊下には、見慣れた三つの姿があった。右から茶髪、銀髪、黒髪。つむじしか見えないのは三人ともが額を廊下につけるようにして頭を下げているせいだ。子供の頃には考えられない構図に思わず笑みが零れた。バレないと思っていたのに、両隣には気付かれていたようで軽く小突かれた。


「三人とも、どうぞ」


声をかければゆっくりと中に入ってくる。お互いに大人になったとはいえ、まだどことなく幼く見える、というか童顔な二人と年相応な一人。私が就任してから初めて会ったせいか、顔をあげた三人は少しだけ不思議そうな表情を浮かべていた。


「…ぁ…えっと…」

「この度は月神組頭領就任おめでとうございます。近隣を代表致しましてご挨拶にあがりました」

「ちちも、ははも、しようが、ありまして…のちほど、ごあいさつに、まいると、おもい、ます…」


「わざわざお越し頂き、ありがとうございます。先代の名に恥じぬよう精進して参る所存ですので、今後とも変わらぬお付き合いをお願い申し上げます」


上座から下りて同じ畳の上で頭を下げる。こんな難しい言葉がすらすらと出てくる自分に違和感を覚え、込み上げる笑いを堪えるので必死だった。

そんな私を察してか障子が閉められ四方が肩を叩く。それを合図に部屋の中の空気が一気に弛んだ。


「…あー、舌噛むかと思ったぁ」

「なかなか様になってたよ」

「そー?ありがと」

「ちるちゃ、きれいー…」

「けどお着物苦しいよー」

「…………化けたな」

「ひーちゃんうっさい」


それぞれ好きに声をかけてくれた。昔と同じような言葉遣いや対応をするのはさすがに気が引けて、それでも同じようにしたくて、笑った。

まだ今日は他にも人が来るらしいだとか、三人の仕事についてだとか色々話した。

ひーちゃんはなんと小説家になった。昔から書き溜めていた小説が某出版社の人の目に止まって、そこから電撃デビュー。執筆ペースは速いらしくてデビューして三年しか経っていないのに、五冊本を出している。ホラー小説、恋愛小説、幻想小説、たくさんの分野で活躍しているのも名前が売れた要因だけれど、実は著者近影がそれに一役買っているのを私は知っている。常にひーちゃんはふーちゃんかみーちゃんと写っていて、童顔美形、とか言われてるらしい。

ふーちゃんはフリースクールの先生をしている。昔していた冬眠をする事はなくなった訳じゃないらしいけれど、それでも日数はうんと減ったという。大人になってますます肌が白く、線が細くなったせいでパッと見れば女の子に見えてしまう容姿のおかげか生徒や保護者に大人気らしい。でも喋り方や雰囲気は昔のままで安心する。最近迫られていて困っている、らしい……男の子から。

みーちゃんはまだ大学院にいる、そのまま大学の先生になる予定だそうだ。なっちゃんと一緒に大学院近くに住んでいて、時々実家に帰ってくるらしい。三人の中で一番大人びて見えるのが不思議で仕方ない。一応専攻も聞いたけど、いまいちよくわからなかった。難しい。頭が良いのは昔からだったけどまさかそのまま先生になろうなんて考える程だとは思わなかった。


「なんか皆大人になったなぁ…」

「一番の大変身はお前だと思う」

「おれも、そうおもうー…」

「僕も」

「えー…」


ちょっと自覚があるから強く反論出来なかった。高校生の頃には絶対ヤクザになんかなるもんかと言い張っていたから余計だろう。結果としてなってしまったのだから、自分としても複雑な心境だ。他の皆、なっちゃんや零人君、貴壱君、今までに関わってきた人達が一体どうなったのか、それも気になる。全ての物事が終わったら見に行こう。











「ていう、夢を見たのよーぅ」

『…そのためだけに深夜に電話?』

「そうそう、リアルだったんだもん」

『…おやすみ』

「え、ちょっ、みーちゃ…!」




八年後、夢の通りになったかどうかは、まだわからない。


110220

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