記憶の底を擽る感覚

 喫煙室で煙草を吸っている部下は、涼しい顔で窓の外に広がるガラス越しの薄水色の世界を眺めていた。
 その微かに憂いを帯びた姿を、くわえ煙草のままこっそり観察している俺に、こいつは多分気付いていない。

 別に誰に頼まれた訳でもないのに、何となく目が放せない男。

 奈良シカマル――



 確かに、彼女がこいつを欲しいと想う気持ちも分からなくはない。
 儚げな少年の顔の隙間に、たまに男の顔が見え隠れして、その危うさが…何つうか、堪らない。
 素直さとプライドの高さ、みずみずしさと老成した様子とが同居しているのは、ある意味見ていて胸の空くような気持ち良さがある。

 庇護したくて
 磨きたくて
 そして
 壊したくなる、か…?

 イカれてる。



「何すか、ゲンマさん」
「いや、別に何も」


 こいつは彼女にとって、刻々と進化する最上級の玩具って所だな………

「未成年が何してんだ、とか…下らねぇ事は言いっこ無しっすよ」
「バーカ。主任の彼女が大目に見てんのに、俺がそんな面倒くせぇ口出しするかよ」

 っと、噂をしてたら…おいでなすったぜ。



「ゲンマ、週明けの会議資料ってどうなってる?」
「とっくに出来てんぞー。つうことで、今夜は飲み行こうぜ」

 良いねぇ…と笑顔で答える彼女を見据えて、奈良の表情が苦しげに歪む。

 ったく、わかりやすいガキだなぁ…オメェも。

 そんな反応見せられると、ついついちょっかい出しちまいたくなんだろーが。



「奈良も行くか?ま、大人同士の濃密な時間を邪魔されんのもたまには刺激になってイイかもだし」
「何、馬鹿なこと言ってんのよ…ゲンマも」
「……っ、」

 ほら、その脆さと鋭さの共存した表情が、俺から見てても堪んねぇ程魅力的だぜ。


「今夜は……止めておきます。それから、」

 やけに挑戦的な双眸が俺を射抜いて、柄にもなく背筋を心地良い緊迫感が走る。

「折り入って主任にご相談したい事があるんで、ゲンマさん…今夜は彼女を俺に譲って貰えねぇっすか」
「ああ…分かった」


「何、奈良くん。改まって」
 って言うか、私の予定を二人で勝手に決めないでよね。

 ったく、素直じゃねぇ女だな…
 ホントは嬉しいんだろうが。

 反論の言葉を紡ぐ彼女を見つめながら、俺と奈良の間には意味深な視線が交わされる。

 何かそんな目ェ見せられっと、腹の奥がむず痒くなるっつうの。
 まるで昔の自分を目の前に突き付けられてるみてぇで(一種の羞恥プレイか何かかよ、これって)。
 その顔を背けたくなる程の青臭さには、流石の俺も敵わねぇ…

 分かったよ。
 今日はオメェに譲ってやりゃーいいんだろ?

 好きにしろ――


記憶の底をる感覚
(主任……たまには強引な歳下の男もイイでしょ、)
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2008.09.14
これでシカ誕企画はおわりです。
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