無造作な優しさ

「ねぇ、シカマル。聞いたー?」

 チョウジ、また入院したんだってよー。と、苦笑するいのを見ながら秋晴れの空へ視線を移した。
 暑すぎず、涼しすぎず、心地の良い風が鼻先をくすぐる。

 どうせチョウジの事だから、理由はいつもの“アレ”なんだろう。だとしたら心配することもない。


「また焼肉食べ過ぎたんだってー、笑っちゃうよね〜」

 やっぱり、予想通り。
 あいつも懲りねぇヤツ…な?
 同じ事を思っているらしいいのと、目線だけで会話を交わす。

「私これから任務で行けないから、よろしく伝えといてね〜」
「了解」

 ひらひらと掌を翻しながら去って行くいのの背中を 軽く溜息を吐きながら見送ると、踵を返し病院へ向かった。



 木の葉病院。
 門を潜り、建物の中へ入るとツンと薬品の匂いが鼻を突く。
 馴染み深い匂い。


「すんませーん。秋道チョウジの部屋は、」
「秋道さん?えーっと、3階の……」

 ……ん?
 あの後ろ姿は――

 まさかここで遭遇するとは思わなかった背中を見つけ、目の前の女性の声は聴覚をするりと擦り抜けた。


「奈良さん、聞いてます?」
「……」

 俺があいつを見間違える訳は、ねぇよな。
 相変わらず華奢な身体つき。
 あれで、俺らと同じ中忍やってるっつうんだから驚きだ。
 あの小さな身体のどこに、そんな精神力とパワーが宿ってんだろうといつも不思議に思う。

「秋道さんの部屋、ですよね?」
「あ。……また後で」

 つうか、あいつ何でこんなトコに居んだよ。チョウジの見舞、か?
 いや、あの片手を庇うような仕草は…怪我か。


「おいっ!!」

 思わず大きな声を出してしまった自分に、我ながら驚いた。

「……!!シカマル?」
「お前、どうしたんだよその手は」

 細い手首に巻かれた、真っ白な包帯が痛々しい。任務での負傷だろうか。

「急に後ろから声掛けないでよ。ビックリするじゃない」
「へいへい、スミマセンネェ」
 
 驚いたという割に、お前の表情は明るくて。
 もしかしてここで思いがけず俺に会えて、嬉しい…とか思ってる訳?

 んなハズねぇか。

「シカマルさん…棒読みなんですけど」

 ワザとデスカ?と、屈託なく笑う顔に、秋の優しい太陽が光を添える。

 出来るだけ無造作に見えるように、ふわり 頭に手を乗せると、くしゃりと髪の毛を撫でた。
 指先に伝わる滑らかな髪の感触と、鼻腔に絡み付く甘い香りが、僅かに鼓動を速める。


「で、その手の包帯の訳は?」
「えーっと……シカマル、笑わない?」

 頷きながら距離を詰める。
 恥ずかしそうに眼を伏せた姿が、何故か妙に悩ましく思えた。


「電球が切れてたの。それを替えようとして踏み台から落ちて、慌てて手を突いたら………捻った」

 心底照れ臭そうに一気に言葉を吐き出して、伏し目がちなまま様子を窺っている。
 つうか、その上目遣い やめろよ。

「はぁー……情けねぇな」
「そんな溜息吐くことないじゃない」

 照れと怒りで染まった頬が、ますます悩ましい。
 きゅっと閉じられた唇は、艶やかに色づいて…

 まともに顔、見れねぇだろうが。

「ったく、お前も忍なんだからしっかりしろよ。目ェ離せねぇだろ…?」

 顔を反らしたまま、無造作に言葉を続けた。

「任務で失敗した事ないし、シカに迷惑掛けたこともないでしょ」
「そういう事じゃなくてよ…」

 そっと表情を盗み見ると、頬を染めたまま不可解だと言わんばかりに唇を歪めている。

「じゃあ、何?目が離せないなんて、ガキに言うようなこと言わないで」
「だから……なんか困った事があったら」

 俺を呼べって事だよ。と、付け加えながら、ぽんぽんと軽く頭を数回叩いた。

「またそうやってガキ扱いするし…」
「そういう訳じゃねぇっつうの」

 気持ち良さそうに目ェ細めながら悪態吐かれても、全然コワくねぇし。
 お前、頭撫でられんの好きだもんな、と思いつつ喉の奥で笑う。

「とにかく、何かあったら俺を呼べ。な?」
「なんで?」

 いやいや、そこで「なんで」とか聞くなって。
 ホントは分かってんだろ?

「はぁー…お前、分かんねぇ訳?」
「……わ、かんない。シカマル程賢くないし」

 すこしは察しろよ。忍は裏の裏をかけって言うだろ。

 つうか、もしかしたら…
 分かってて、ワザと俺に何か言わせようとしてんの?

「…お前の事が心配で仕方ねぇからだよ」
「だから、なんで?」

 あ。やっぱそうなんだ…。
 お前は、おれのコトバが聞きてぇんだな?
 これじゃ足りねぇのかよ、もっとハッキリ言えって そーいうこと?

 ったく、めんどくせー…



「お前の事が……好きだからに決まってんだろ」



「……シカマル、顔真っ赤だよ」

 催促して言わせといて、そのツッコミはねぇだろ。
 そう言ってるお前の方が顔赤ェし。

「お前も、な。で、返事は?」

 上気した頬に上目遣い、何か本気でヤベェんだけど。
 ここ、病院だしよ…。

「……シカマルこそ察して」

 気が付いたら、俺のベストを掴みながら首まで真っ赤にしたお前を、両腕で抱きしめていた。

「だから、俺から離れんなよ?」
「ん」



無造作なしさ
(で、シカマルは何で病院に居たの?)
(…っ!! お前が心配で、かな)

 わりいチョウジ。退院したら焼肉食べ放題で勘弁な。
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