理由のつかない欲望

 冷めきっている(聞こえの良い言い方をすれば“クール”ってやつだ)とか、顔見ても何考えてるのかさっぱり分かんねぇとか、世を達観したじじいみたいだとか、周りの奴らは好き勝手な事ばっか言ってっけど――

 俺もただの高校生だっつうの。
 人並みの感情はあるし、自分で驚いちまうような欲望だってあんだよ。

 それが見抜かれねぇように ちっとは努力してっけど、な。

 だいたい、顔見ただけで考えてる事を読み取られるようになっちまったら、人間終わりじゃねぇ?分かり易い男になんてなりたくもねぇし、んな恥ずかしいこと俺には我慢できねぇって。




 生ぬるい空気の流れる午後、頬杖を突いて窓の外を眺めた。
 夕暮れの近付いてきた空は、薄青の中に微かな橙色が混ざり始めていて、無性に切なくなる。

 今だって窓の外を歩く女生徒の群れを観察しながら、何考えてんのか。
 …ぜってぇ人には言えねぇ(こっそり美脚観察なんて、変態と思われんだろ?)。


「シカちゃーん、何たそがれてんの?」
「別に」

 キバはそれ以上追及してくることもなく、何の変哲もないただの一日がもうすぐ終わろうとしていた。

 教室のざわめきと、空に浮かぶ雲。
 放課後、お前を待ってるこの時間って、結構好きなんだよな。


「うぉ――!!あれって、シカちゃんの彼女じゃね?」
「ん?」

 その声につられるように、視線を流した先には確かにお前がいて。
 歩いてこっちに近付いてくる姿を見るだけで、胸がドキドキし始める。

 いや、毎日一緒に帰る約束してんだから、トーゼンなんだけど。
 何でこう、毎回姿を見るだけで心臓がバクバクするかな。俺の身体、壊れてんのかも。


「相変わらず可愛いよなぁ…」
「そうか?」

 心の中で“俺の選ぶ女だから当然”なんて思ってる俺は、案外イヤな奴かもしれない。

 つうか、ちょっとフラフラしてねぇか?
 そういや、昨日の晩メールで頭痛ェとか言ってたし。熱でもあんのかも。

「ああ。何か、儚げで危うい感じが……っ!!あ!!」
「っあの、バカ…」

 何でそんな、なんもねぇトコでコケれんだよ?
 お前のその脚は、飾りか。それともマジで具合わりぃの?

 って、思いっきりスカート捲れてたじゃねぇか。


「(今ちらっと見えたっ!!ラッキー)」
「……(おいおい、キバ?)」
「(つうか、シカちゃんすげぇコワい顔なんだけど)……」

 キバの野郎、いま確実に心ん中で喜んでんだろ。
 ラッキーってしっかり聞こえてんだけど、空耳か?それとも、喧嘩売ってんの?

 じろりとキバの方を睨み上げると、視線の端で同級生らしき男がお前に手を差し伸べた。

 んな、知らねぇオトコの手、借りんな!!
 つうか、そいつお前に惚れてんじゃねぇの…何か顔赤ェし。
 まじでムカつく。


「シカちゃーん、助けに行かなくていいのー?」
「あ?別に大したことねぇだろ」

 その内、あいつここに来るし。と、言葉を続けながら実際のところ、心中は穏やかではなくて。
 ニヤニヤと意味ありげに俺を見ているキバに、必要以上の苛立ちを感じる。

 カンペキ、やつ当たりって奴だよな…これって。
 俺、こんな器の小せェ男だったのかよ。情けねぇ。

「ふーん」
「お前、何ニヤけてんだよ?つうか、記憶抹消しろ!!」
「えぇ、何の事ですかー?俺、バカだから全然分かんねぇんだけどー」

 そのふざけた喋り方…しっかり見てんだろうが。

 はぁー……
 溜息を吐き出すのと同時に、教室の扉が開いた。



「奈良先輩、お待たせ」
「おう」
「さっきそこで転んじゃってね、ほら」

 こらこら、お前ここでスカート捲らなくって良いっての!!

「俺達、ここから見てたぜー。な、シカちゃーん?」
「黙れ、キバ」
「えぇー?!先輩たちに見られてたんですか?」

 きっとこれ痣になっちゃいますよね。と、言いながら太腿の外側を摩る姿にくらくらする。

 お前の脚は、俺んだろ?易々と他のヤツらの視線に晒すなっての。
 キバだけじゃなくて、ナルトもサスケもこっち見てんじゃねぇか。

「熱、あんだろ?そんな時は薄着すんなって、何度言ったら分かんだ」
「…すみません」
「ほら、帰るぞ」

 これ以上、俺以外の男たちの好奇の目にさらすのがイヤで。
 お前の眼に他の男が映るのがイヤで。

 有無を言わさず手を引くと、教室を飛び出した――



「じゃ。犬塚先輩、うずまき先輩、うちは先輩も、また明日」
「おう、お疲れってば〜!!」
「シカちゃんに襲われんなよー」
「シカマル、ほどほどにしろよ」
「ばっ!!お前ら、何言ってんだ…」

 こいつらの台詞。あながちそれは、間違いでもなくて。
 さっきの光景が脳裏にフラッシュバックすると、早くお前を独り占めしたくて堪らなくなる。

(スカート短すぎ、他の男に脚見せんな。つうか他の男の手を簡単に借りんな。)
(…はい。分かりました、先輩。)

 お前のその上目遣いの視線、俺が嫉妬してるって気付いてんだろ?
 ほんの少し怯えるような表情を見せられると、何故か逆に煽られて。

 なあ、俺…お前のこと考えるとマジで死にそうな位苦しくなんだけど。
 お前はそうじゃねぇの?

 同じ気持ち、だよな。

 そうじゃなければ、不公平じゃねぇか――


(お前の脚は俺んだろ?)
(私の脚を、モノみたいに言わないで下さいよ!!)
(イヤな訳?) 

 左右に振られる首を無理やりに固定して、校舎の壁に華奢な背中を押しつける。


「脚だけじゃなくて、お前の全部が俺のモンだから」
「センパ…っ!!」

 逃げらんねぇぜ?
 つうか。逃がすつもりなんて、全くねぇから。


 両手をお前の左右の壁について退路を絶つと
 貪るように唇を塞いだ――


理由のつかない
(その痣、あとで確認してやるよ。俺の部屋で じっくり、な)


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2008.09.17
学パロ、歳下ヒロイン
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