プラマイ0がちょうどいい

「そんな風に、物に当たるもんじゃねェですぜィ」

 手首を掴んだ総悟の声は、思いの外優しい響きで耳に届いて。
 私はいままさに壁に投げつけようとしていたちいさな物体を、ぽろりと手から離した。

「……だって、副長が」
「土方コノヤローは、代わりに俺が潰すと約束しますから」
 アンタは黙って虐められててくだせェ。

「は?何でよ!?」

 今、ちょっとだけ総悟の優しさにくらくらした乙女心を、一瞬で打ち砕かないでよね。
 このドS王子…やっぱり喰えないヤツだ。
 だいたい、何で私がこんなに苛々してると思ってるんだろう。
 総悟が土方さんをチクチクと虐めてるから、そのストレスが全部私の方に降り懸かってくるんじゃない。
 なのに"おとなしく虐められろ"って何よ、余計に腹が立ってきた。

「総悟っ…!!」
「何怒ってるんですかィ、可愛い顔が台なしですぜ」

 文句をたっぷり浴びせてやろうと口を開いたのに

「……っ」

 総悟のたった一言で、なにも言えなくなる。

「やっぱり女はそうやって慎ましやかに、ほんのり頬を染めてんのが一番でさァ」

 眩暈がしそうなほどの麗しい笑顔を見せられると、反抗する気なんて失せてしまう。

「役割分担、バッチリだと思いやせんか?」

 うれしそうに私の頬を撫で下ろす指先に、胸が跳ねる。

「俺が副長を思い切り踏み付けにする役で…」
「私は踏み付けられる役?」

 理不尽でしょう、そんなの。
 はい、そうですか…って私が簡単に受け入れるとでも?

「そんな顔しねェで下せィ…土方に虐められた分は、」
 俺がたっぷり可愛がってやりますから。

 不敵な笑顔で言葉を続けながら、総悟がすこしずつ距離を詰める。じりじり、と。

「納得できる訳ないでしょう」
「イヤ、納得して貰いやすぜィ…それがこの世の理だって、分からせてやりやしょうか」

 作りモノみたいに綺麗な顔がニヤリと妖しく歪みながら、私の方へ近付く。
 魅入られたように目線を逸らせずに、心拍数が跳ね上がる。

「でも……っふ」

 塞がれた唇から自我が溶けてゆく。
 絡まる熱が、さらに呼吸を乱す。


「俺たちは良いコンビだと思いやせんか?」
「……ん。(きっとこれは、不器用な告白なんだね?)」


ラマイがちょうどいい
(軽すぎず重すぎず、至極自然に当たり前に。ぼくらはそっと寄り添うべきだ)
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