人間論

 人は誰しも孤独なものだというけれど、俺程に常日頃から孤独な人間はあまりいない気がする。監察という仕事柄、仕方がないのかもしれないけどね。

 ぽつりと呟いたら、いやに眉を潜めた君に食いつかれた。

「じゃあ聞きますけど、ザキさんにとって"孤独"って何ですか?」
「へ…?」

 どうしたんだよ、急に。
 俺はただ、独り言を言っただけだよ?

「"孤独"という言葉で、どんな状態を指し示してるの?」
「え、えーっと…"孤独"という言葉の定義を聞きたいのかな?」
「まあ、一般的には定義とか認識という言葉で表されるモノ、ですね。教えて下さいよ」

 まるで喧嘩を売るような口調で問いかける君に、ちょっと驚きながら、それでも、当たり障りのない答えを探す。

「孤独と言えば、普通は"ひとりぼっち"ってことでしょ?」
「質問してるのは私の方だから。疑問形で答えないで」

 いやいやいや、噛み付いてこないでよ。
 っていうか、売られたケンカを買うべきなの?
 俺、この喧嘩受けて立たなくちゃいけない?そもそもこれはケンカなのだろうか。

「だから、ひとりぼっちで寂しいこと」
「ザキさん、寂しいんだ?ひとりぼっち、って思ってるんだ?」

 あれれ、この流れって何だろう。
 君は何だか切なげに眉根を寄せてるし、そんな表情見せられるとドキッとする。変な勘ぐりとかしてしまいそうになる。
 "私がいるのに寂しいのね"、とか…そういうこと?
 もしかして俺、ちょっと非難されちゃったりしてるのかな。そんなつもり、全然ないんだけど。


「さっき"普通は…"って言いましたよね?」
「ああ。言ったよ」
「その"普通"って何?」

 ちょっと寂しそうに見えたかと思えば、また喧嘩腰ですか。
 まったく。
 君の考えてることって、俺には全然分からないよ。

「うーん…"普通"といえば、ごくありふれていること。かな」
「ザキさんの"普通"が、私の"普通"の認識と同じとは思えないんだけど」

 はぁー……溜息出ちゃうよ。
 君は、俺にどうして欲しい訳?どんな答えを望んでるのかな。
 ただイライラしてるから、俺に当たってるだけなんだろうか。


「そうだね。俺にとっての普通も、一言では説明できないし」
「……」
「ゆっくり時間を掛けて君に伝えたいから、これから一晩付き合って?」
「ザキさんのエッチ!!」

 なんでそうなるの……っていうか、耳たぶが赤く染まってるよ?
 もしかして、ちょっと嬉しかった?あ。……構って欲しかったんだ。
 ホントに君は、素直じゃなくて。そういうところが可愛いよね。

「そうかもね。オトコってのは、みんなエッチなモンなんじゃない?」
「"みんな"って誰ですか、具体的にセツメ…っ!!!」

 まだまだ棘のある言葉を吐き出しそうな唇を、そっと塞ぐ。

「さがる…っ、」
「な、何?」
「どうしてそんなに短絡的なのよ」
「だって…キス、したくなったんだもん。良いでしょ?」


 そもそもの発端は、君がとんでもないわからず屋だったからであって。
 でも、そんな君のことすら可愛いと思ってしまう俺がいて。

「何でキスしたくなったのか、30字以内で説明して」
「うーん。"君が、可愛いから。"」
「10文字も使ってないじゃない!!」
「いいから…もう、黙ってて」

 薄桃色に上気した頬をそっと両手で包むと、艶やかな唇をもう一度そっと塞いだ。


 人間は、目の前の欲に忠実な方が良いでしょ。

 だから

 今夜は寝かせないよ――




(常に理屈っぽいんだ、君は)
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