ないしょだよ、

「全く万事屋の旦那も猜疑心の強ェお人ですねィ」
「ごめんね、総悟」
「そんなにケツの穴の小せェ男だとは思いやせんでしたぜィ」
「でも……銀ちゃんはきっと親みたいな気持ちなんだよ」

 もともと不機嫌そうだった総悟の顔が、さらに暗く沈む。
 なかなか万事屋を抜け出せなくて、さんざん外で待たせてしまったから、怒ってて当然だよね。


「土方コノヤローと旦那のせいで無駄な苦労背負い込まされてるのを忘れたんですかィ?」
「それはそう、だけど…」
「なのに…旦那のカタを持つんですねェ。俺に喧嘩売ってんのか、コノヤロー」
「違う、違うよ…」

 あ。もしかして…
 私、総悟のドSスイッチを押しちゃったかもしれない。


「じゃあ、アンタは俺とこんな風になかなか会えなくても構わねェんですかィ?」
「そんなこと…ない」

 気のせいか、総悟の声色がすこし変わったように思えた。

「それともあれかィ、会えない時間が愛を育てる的な…」

 ふーん、なるほどねェ。と、ひとりで納得した様子の総悟を見つめながら、首を傾げる。

「確かに、障害が大きいほど恋は燃えるって言いますからねィ」
「それは…そうかもしれないけど、でも」

 アーモンド形をした綺麗な総悟の瞳が妖しい色に染まる。
 夜風に、栗色の髪がさらりと揺れた。


「そういう意味では、反対されんのも満更悪いことばかりでもねェって事ですかィ」
「え……?」
「土方の野郎と旦那の猜疑心を、そんな風に利用してたなんて…」

 “利用してた”って、何?
 そんなつもりは、全然ないんだけど。

「なかなか、ヤりやすねぇ。見上げた根性でさァ」
「総悟…?」

 総悟のコトバの意図を探ろうと、頭ひとつ分上にある整った顔を見上げる。形良い唇が、意味ありげにニヤリと歪む。


「あのふたりを利用するなんざ、アンタも食えないアマだねィ」
「どういうこと?」

 ますます妖しげな色を帯びて行く総悟の姿に、密かに見惚れながら、回らない頭を必死で働かせる。


「あれだ。旦那たちを“焦らしプレイ”的に利用してたんだろう?」
「……っ」

 なにを言ってるの、総悟。
 そんなこと、ある訳ないでしょう?


「でも、そんな女…俺は好きですぜィ」
「そう、ご……」
「大丈夫。ふたりには黙っててやりまさァ」

 突然伸びてきた指先に、顎をくいっと持ち上げられる。
 それだけでこんなにドキドキするなんて、私は相当この男にイカれているらしい。


「焦らされんのが好きなら、もっと早く言ってくだせェ」
「ちょっと!!違っ」

 反論の言葉を飲み込むように、乱暴な口付けが降ってくる。


「遠慮しなくても、」
「……な、に?」



「今夜は俺が“もう嫌だ”って言うまで、アンタを焦らしてやりまさァ」



いしょだよ、
(俺たちはそうやってひそやかに、けれど触れ合わずにはいられない)
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