正しい恋愛

「銀さん。それ、絶対間違ってるよ。全然正しくないから!!」
「出た。またですか。正しい正しくない攻撃ですか。お前も好きだねェ、そのコトバ…」
「だってホントに正しくないんだもん、私は正しい事が好きなの」

 あーあ。眉間に皺寄せちゃって、せっかくの可愛い顔が台なしじゃねェか。

「はいはい、分かりましたァ。銀さんが間違ってたー。で、お前的にはどうするのが正しいんですかァ?」
「あのね、まずは卵を別の器に割って、お醤油をたらして、」
「もっと近くでやってくれなくちゃわかりませんー」

 近付いてきた細い手首を引き寄せて、膝の間に座らせる。

「ほら、ここでやれよ」
「ん……銀さん、耳元で喋らないでよ。擽ったい」
「何でですかァ、銀さんの声嫌い?嫌いじゃないだろー?好きだよねェ」

 いつもより掠れた声をたっぷり注ぎ込んで、ちいさく震える肩を抱き締める。

「そんな問題じゃなくて っ、」
「んー?どんな問題だよ」

 お前、銀さんの声好きだもんなァ。

「とにかく、ちょっと離れて」
「いやですー。別にこうしてても喋れんだろォ?」

 耳朶に唇を掠めるたびに肩揺らしちゃって、可愛過ぎだっつうの。

「卵を割って、どうすんのー?銀さん、いい加減腹減ったんですけどォ。腹減ってペコペコなんですけどォ」

 卵かけご飯の正しい作り方なんて、本音を言えばもうどうでもいいんだよね。
 それより、別のもの喰いたくなってきたんだけど。
 それもこれも全部お前のせいだから、お前が可愛過ぎるせいですからァ。
 責任とってくれよな、コノヤロー。

「どうした。続きは?」
「だから、卵にお醤油をたらして んんっ!!」

 俯いた無防備な首筋に軽く歯を立てる。

「真面目に聞いて」
「聞いてるよォ、銀さんちゃーんと聞いてるから。お前のコトバ、一言一句漏らさず聞いてますゥ」

 うなじに唇を触れさせたまま喋ると、口の動きに合わせてお前がちいさく身をよじる。

「銀さ、それ」
「何ですかァ、お醤油をどうするって?」
「それ、やめて…」

 お前からこぼれる声の湿度が上がる。

 そんな風に潤んだ声聞かされると堪らなくなんだろーが。
 さっきまでお腹空いてたとか、食べ物を目の前にして止められてイライラしたとか、そんな事はもう頭の中から消えて
 腕の中で甘い香りをさせているお前だけに夢中だよ、いま喰いたくて仕方ないのはお前だけだよ。

 ちいさな耳朶に舌を這わせたら、お前は弾かれたように振り向いた。

「銀さんっ!!それって誰かにものを教わる態度じゃないと思、」
「また正しい正しくないの話ですかァ?んーじゃあ、人にモノを教わる時は……どうすれば良いんだよ」

 思い切り低くて嗄れた声で囁いて、耳朶をやわらかく食む。

「ぎ、ん ときっ」
「そーんなエロい声で名前呼ばれると、銀さん変な気分になっちゃうんですけどォ」

 吹き掛ける吐息は熱い。
 これでもか、ってくらい甘い声でお前の名前を呼ぶと、強張っていた肩から力が抜ける。

「銀……っ、ずるい」
「何がだよ?」
「私が、銀時の声に よわいって、知ってるくせにっ」

 潤んだ瞳が俺を見上げる。

 その表情は反則でしょー、銀さんマジで止めらんないって。
 もう無理だから。制御不能ですからァ。

 染まる頬に手を添えて唇を塞ぐと、浅い息が漏れる。
 唇を繋げたまま、細い身体をソファに沈める。

 見つめ合うだけで

 体温も室温も上昇して

 互いしか見えなくなる――


しい
(ちなみに今から銀さんがお前を食べちゃうのは、恋愛論としてしいですかァ?)
(…… ただしい)
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