甘い嘘と苦い本音
俺は昔から、なぜか誤解され易いタイプだ。
見た目というやつに、惑わされる人種と言うのはかなり多いらしくて。
面倒なことに自ら首を突っ込むのは苦手だったし(と言うか、避けてきた)。取り立てて訂正するほどの誤解でもないから黙ってるだけ。
まあ、確かに要領は悪くない方だと思う。
誤解を押し包んで隠すなり問題をすり替える方法なら、幾らでもあるし。
だから、これまではわざわざ弁解なんてせずに、適当に放って置いた。
けれど…流石に、今回はそういう訳にも行かないらしい。
「アオバ、私と結婚してくれるんでしょう?」
そうやって問いかけてきたのが彼女だったら、迷わず肯定の返事をするんだけどね。
生憎彼女は易々とそんな問いを投げる女性じゃないんだ。
この女は別に、付き合ってるという認識すらないただの女で。どうして、今そんな言葉が俺の身に降りかかってきたのか、首を傾げたいくらい。
また自分でも気づかない所で誤解させてしまったのだろうか。それを正す労力を払うのすら面倒だ(…なんて、目の前の女には失礼だけど)。
「ねぇ、アオバ…どうなの?」
「そうだね、まだ早いんじゃないかな。俺には」
「どういうこと?」
「君のような女性に、俺じゃまだ釣り合わないってこと」
嬉しそうに顔を赤らめる女を見ながら、心のなかで呟いた。
君は本当の俺のこと、全然知らないじゃない?
それに。
俺の好きな女は、そんな陳腐な安っぽい言葉は絶対使わないし。そんなに分かりやすい反応もしないんだよ。
(だから君は失格――)