にじみだすまえに、
隣に感じるやわらかい熱を乱さないように静かに身じろぐと、シングルベッドのスプリングがちいさく軋む。
鼻にかかる寝息が聞こえたけれど、まだ彼女の起きる気配はない。
顔が見えるように向きを変えたら、額の触れそうな距離に迫る無防備な姿。
うっすらと浮かぶ隈と、酸素を求めてちいさく開いた唇に、きゅっと胸が痛くなった。
寝てる姿にすら煽られそうな自分に、自嘲のため息をひとつ。
ふっ。と空気が揺れた瞬間に、ちいさく彼女の前髪が靡いて、至近距離の薄い瞼がぴくりと微動する。
起こしちまった…か?
変わらず寝息を立てたまま、無意識に伸びてきた細い腕が俺の背中に回って。
決して強くはない力で抱きしめられるのを感じたら、まだぼんやりと霞んだ頭の中はお前でいっぱいになる。
込みあげるどうしようもない愛おしさに、酸欠になりそうな気分だ。
胸に擦り寄せられる頭に、そっと手を添えて。
やわらかい髪の毛の齎すふわふわとした刺激に、口許が緩む。
かるく腰に手を回せば、肌に伝わるとろけそうな外圧に、腕の中の身体を引き寄せずにはいられなくて。
すっぽりと胸に納まった物体のやさしい熱に、心臓が握り潰されたみたいに苦しくなった。
髪の毛の隙間に鼻先を潜らせて、頭頂部にキス。
ちいさく動いた肩を捉えて、耳たぶにもキス。
うなじの後れ毛を唇で辿って、浮きでた肩の骨にキス。
くり返し肌を啄めば、腹の底を擽るようなむず痒さが、じわじわと這いあがってくる。
(シカ…?)
やっとお目覚めかよ。
「起きてたんだ」
「ああ、さっき誰かさんに寝ぼけて抱き着かれたから…な」
「ごめんね」
「別に。謝るようなことじゃねえだろ」
腕に抱きしめられたまま、ふふと笑う彼女の吐息は、幸福に満ちている。
なにがそんなに楽しいんだか。
「んだよ?」
「……寝起きのシカマルの声って」
色っぽいなあと思って。にじみだすまえに、やっぱりお前は、無意識で俺を煽る天才。 どろり、溶け出したのは欲望――