overnight

 イタタ……
 鈍い痛みを訴える腰をさすりながら、想い浮かぶのはさっきまで繋がっていた身体の熱。


 しばらく会えずにいたから、私だってシカマルに触れたかったし触れられる事を望んでいたのは確かだ。
 一晩中になるなんて、まさか思ってなかったけど。

 何度目かの浅い眠りからうっすらと覚醒した頃、カーテン越しに東雲の光が差し込んでいた。

 いったい何度抱かれたんだろう。
 何度意識を飛ばされたんだろう。

 もう身体は離れている筈なのに、繰り返し穿たれた体内が、その感覚をしっかり記憶していて。
 目を閉じたまま、自然に口元が緩んだ。

「お前、 なに笑ってんの」

 ちゅっと音を立てて、唇に柔らかいものが触れる。

「え 」
「いい表情だけどな」

 閉じたままの瞼に、ひとつずつ口付ける感触が、じわりと去った筈の感覚を引き戻す。
 朝と言うのは、人の感覚を研ぎ澄ます効果があるんだろうか。
 ほんの微かな触れ方なのに、確実に身体の奥から繋がる神経系を刺激されて。身体中に鳥肌が浮いた。


「シカマルのこと、思い出してた」

 ここで、ね。と、言葉を続けながら下腹部をそっと撫でる。

 何度も突き上げられて、高められて。
 気絶するように眠りに吸い込まれながら、しっかり粘膜に絡みついて残った記憶をたどるように。

「お前、ワザと?」
「なにが」
「そういう事、言うなっつうの」
「……」

 子宮の感覚を辿るように、撫でていた手を強く掴まれる。

「その、仕草も。ったく」
 また、その気になんだろうが。

 聞こえない位小さな声で紡がれた台詞。ほんの少し照れを含んだその声が愛おしい。
 その響きで、さらに身体が泡立つのを、シカマルは気付いているだろうか。

 さらり、腕を撫でられて、ゆっくりと瞳を開いた。


「シカ、起きてたの?」
「ああ。お前の寝顔見てた」

 片肘を突いて私を見下ろす彼は、ほどけた髪が頬にかかって、穏やかな笑顔。
 昨夜繰り返し与えられた欲望は、もうその瞳から影を潜めているのが、少し哀しい。
 努力して隠しているのか、それとももう満足してしまったのかは分からないけれど。
 こんなに明るい朝に、ヘンな気分になっている自分の愚かさがより際立つように思える。

「なあ、」
「なに?」

 陽の光に透ける黒髪が、艶やかで。

「おいで」
「ん…」

 差し伸べられた腕に頭を預けながら、胸がきゅっと詰まった。あんなに重なり合ったのに、たったこれだけでまた。

 頬を広い胸に擦りつけると、ふわりと漂うシカマルの匂い。
 かすかな汗と、体臭と、薄れてしまったボディソープが調合されて、大好きな種類の香りが出来あがっている。
 鼻先を押し当てて、吸い込んだ香りは、フェロモンと言われるものなんだろうか。
 構成している成分の全てが、官能と直結しているようで、無意識に眉が顰む。

「大丈夫か?」
「大丈夫って、なにが?」
「眉間に皺寄ってるし」
 エロい表情になってんぞ。

 照れ隠しに胸を叩くと、口の端を歪めた笑みが降ってくる。
 いったい彼は、どこまで私の本心に気付いてるんだろう。

「嘘、ウソ。冗談だって。カラダ 疲れてねぇ?」

 疲れていないはずはない。
 身体中を覆う、重たい疲労感がその証拠だ。

「疲れた…」
「だよな。お前、体力ねぇから」
「けど、心は満たされてる」

 くくっ。笑うシカマルの艶やかな表情に見惚れる。
 顎を支えた彼の手が心地いい。
 親指でそっとなぞられる唇の輪郭から、ぬるい欲望が溶けてこぼれる。

 そっと塞がれるくちびるが熱くて。

 でも、これ以上はもう無理だ。
 身体が悲鳴を上げそう。

「いま、何時かな」
「多分6時くれぇじゃねえ」
「じゃあ、まだ眠れるね」
「ああ」

 目を細めて私を見下ろすシカマルに、やっぱり胸が騒ぐなんて、言えないけど。

「昼まで一緒に寝るか」
「ん。」


overnight
(それとも、続きやる?)


嘘だよ(彼女は、嘘じゃねぇほうがいいらしい、俺の気のせいとか眩んだ欲の見せる幻じゃねえと思う)。

その表情見せられて抑えんのは正直かなり辛ぇけど、お前にムリさせ過ぎて倒れられても困るし。
目ぇ覚めたら、昼飯作ってやるから。今は、ゆっくりおやすみ…――

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2009.02.18
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overnight=一晩中,夜通し,朝まで,夜の間
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