overflow

 ベッドサイドの小さなランプだけ灯した部屋は、淡い光が満ちて。
 照らされる細い輪郭が、闇の中で艶やかな空気を醸している。

 風呂上りの濡れた髪、温まって上気した肌。
 くたりとベッドに倒れ込んだ背中を、ほぐすようにやわらかく撫でていると、布越しの曲線で身体の奥が騒ぎ始める。

「シカ、ありがと」
「ああ。力、キツ過ぎねえ?」
「ちょうど…いい」

 今にも眠りに落ちて行きそうな、まどろんだ声。
 うつ伏せた瞳がちらりと薄く開いて、俺を捉える。

 どうせ、帰ったらなかなか寝かせてやれねぇんだし。
 さっきの呟きを、心の中で繰り返して。

 ローブの首元からするり、掌を差し入れたら

「つめた…」
「わりぃ」

 軽く揺れる肩に、噛み付きたくなる。
 撓る背に浮き出した肩甲骨を、指先でゆっくりと辿って。

「シカ……」
「なに?」
「くすぐったい」
「気持ちよくねえ?」

 そんな事ない…けど。と、続く声の甘さに、許されたことを知る。

 名前を呼びながら、脊椎の窪みに合わせて唇を這わせる。
 するすると剥がされていく布に抵抗して、捩られる身体。
 浮きあがった隙間に掌を差し込むと、やわらかい胸の感触に指先が溶ける錯覚。
 淡くこぼれる息が、色をすこしずつ増して。比例するように、身体の奥では疼きが膨らんで行く。

「…シカマル」
「ん?」

 肩越しに俺を見つめる双眸が、ゆらり。
 無意識の煽りに、引き寄せられて唇を塞ぐ。

「……っ」

 漏れる吐息をすべてこぼさず呑み込むように、何度もなんども唇を重ねて。
 くり返し感じるとろけそうな感触と、室内を満たす水音が、最奥に潜んでいる濃い感情を引き出す。

 あふれる、溢れる――
 吐息が溢れる、愛おしさが、欲が溢れだす。

 脚を絡め合ったまま身体を反転させて、すっかり脱げてしまった肌を覆うように重なり合う。
 正面から触れ合っただけで、頭がショートしそうな快感。身体をずんと、痛みにも似た痺れが貫いた。

「ちょっと、待って」
「待てねえ」
「シカマ……っ」

 反論の言葉と一緒に、甘い声を啜り尽くす。
 胸の下、潰れた膨らみからつたわる鼓動。潤んだ瞳でさらにあおられる欲情に、自ら翻弄されて。

「お前、さ」
「な、に」

 キスの合間に紡ぐ会話は、意図せず甘い響きに傾いていく。
 片手で梳く髪は、濡れて指に絡みつく。

「まだ待てっての?」
「 だって」

 ちゅっ、唇を啄ばみながら額をぶつけて。

「コレ、分かんだろ?」

 染まった頬を両手で包み込むのと同時に、ゆるり。腰を擦りつけた。
 ほら、俺…もう。

「シ カ、」
「な?」

 そんな声だしても、無理。
 縋るような目は、なおさら俺のなかの熱をたかめるだけだから。

「これで待てっつうの、酷じゃねえ?」


overflow
(止めるつもり、ねえから)

太腿に当たってんだろ?
気付いてねぇ筈……ないよな。

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2009.02.18
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overflow=氾濫, 流出;あふれた水。過多, 過剰;超過人員[物]
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